「一人旅よ。残念ながら。」

「ほんと残念だな。」

「あなたを忘れるために、もう一度ここを訪れたの。」

ショウヘイはサンドイッチにかぶりついたまま、視線だけ私に向けた。

「あなたの家を離れた日、自分があなたのこと好きすぎてどうにかなりそうで恐かった。あなたに嫌われる人間になってしまうのがすごく恐かったの。だから正直になれなんて言われたけど結局なれないって思ったわ。それに、あなたにとって、営業職はきっと天職で何よりも大切な仕事だとも思ったから、それを邪魔する存在にもなりたくなかった。あなたが彼女とやり直せば、きっとあなたが幸せになれるって、」

「ばかかお前。」

私が話している途中で遮るようにショウヘイは言った。

「それがお前が出ていって、一切連絡を絶った理由?」

うなずきながらショウヘイの顔を見上げた。

ショウヘイは前髪を掻き上げながら、ふぅと短くため息をついた。

「まぁ俺も悪いんだけどさ。結局俺も正直にお前に話してなかったことがあったから。それがお前を不安にさせたのかもしれないな。」

「何それ?」

「彼女とやり直すなんてこれっぽっちも頭になかった。部長にしつこくせっつかれたけど、俺は今好きな人がいるから無理だって毎回断ってた。それは社内の人間かって詮索まで始めてさ、これはお前に迷惑かけるかもしれないと思って慌てたよ。それで一度きちんと話しなくちゃって部長と彼女と三人で食事に行ったんだ。それがお前の出て行った日。」

三人で車で帰ってきた日?

私が立ち上がれないほど落ち込んだあの光景は、私のためだったの?

ずっとやり直せないって言ってくれてたんだ。好きな人がいるからって。

胸がきゅーっと締め付けられるようだった。そんなこと思いもしなかった。

「だけど、部長の話を断れば俺もこの先どうなるかわからないだろ?そんな状態でお前にずっとそばにいてくれなんて言えるはずもなかった。お前も今度こそ幸せになるんだって意気込んでたし。」

ショウヘイはそう言いながら笑った。

「だから、俺もずっとお前に連絡とれなかった。この年で転職したての先行き不透明な男がお前を幸せにできるなんて確信が持てなかったから。せめて、もう少し自分に自信がもてるようになったら、」

ショウヘイが私の目をじっと見つめた。

私の好きな手の平で私の前髪をそっと掻き上げる。