「ええ。あなたも?」

「俺は、ボチボチ、かな。」

庭園の木々が揺れる辺りから鳥のさえずりが聞こえる。

「出張って、再就職でもしたの?」

「ああ。本当はもっとあの会社で自分自身を鍛えたかったんだけど、例の部長がずっと返事を急げってうるさくって。俺もとうとう爆発しちまって部長に「いい加減にしてくれ!」って言っちまった。」

「河村部長に??」

「笑えるだろ?部長も目を丸くして驚いてた。これ以上この会社にいるのは無理だなって思ってた矢先、松坂部長から連絡があったんだ。」

「確か名刺もらってたよね。」

「うん。松坂部長は俺に名刺を渡した時から全てお見通しだったみたいでさ。『迷うことがあれば、腐っちまう前に俺のとこに来い』って言ってくれて。本当にかっこいいよ、松坂部長は。っていうか、今は松坂社長って言わなきゃな。」

「ひょっとして、今松坂部長の立ち上げた会社に勤めてるの?」

ショウヘイは口元を緩めて頷いた。

そうだったんだ。

「じゃ、海外営業の仕事させてもらえてるんだ。」

「うん。本当にありがたい。明日こっちで商談があるんだ。松坂部長が『お前も少し切りかえの時間が必要だろう?』って、休暇かねて3日ほど前に先に入らせてもらったんだ。」

今更ながら胸がドキドキしてきた。

すぐそばに私の愛しいショウヘイの横顔がある。

「お前は、どうしてこっち来てるんだ?海外慣れてもないのにまさかまた一人旅か?それとも1年前に豪語してた新婚旅行とか?」

ショウヘイの顔がいたずらっぽく微笑みながらこちらを向いた。

そんな調子で言うショウヘイを見つめながら、全てが懐かしくて、愛しかった。