「俺?」

彼はビールを飲むと、少し上目遣いで私を見た。

改めてよく見ると、やっぱり整ったきれいな顔をしている。

酔いのせいか、奴が妙に魅力的に見えて、不覚にもその目にドキンとした。

「ちょっとね、会社関係でトラブルがあって異動になったんだ。その異動は俺の意志に反する異動だったから、自分自身の頭の中をリセットするために1人でここに来た。」

リセットするためだったら、私と同じじゃん。

内容の格は若干違うけど。

「いわゆる左遷的な異動ってこと?」

「君もはっきり言うね。」

彼はそう言うと、軽く笑った。

「ま、左遷っていうほどじゃないけど、今までやってきた仕事とは全く関係ない部署に転属になったんだ。これまでの俺のがんばりは何だったんだろうってね。」

「仕事でトラブルって、何か失敗でもしたの?」

彼はビールを一口飲んで、しばらく黙った。

聞いちゃいけなかったかな。

「失敗っちゃ、失敗だけど。ま、それは流しといて。」

妙に落ち込んだ顔をしている彼に少しだけ同情した。

そりゃそうだよね。

自分をリセットしなきゃなんないくらいの失敗なんだもの。

赤の他人に言いたくはないわ。

私が大失恋したことを敢えて話さなかったように。