一呼吸置いて、またエレベーターホールに戻った。

スマホがふるえてるのに気づく。

見ると、ショウヘイからだった。

「ごめんなさい。」

電話に出るやいなや謝った。

「いや、どうしたのかな、と思って。」

ショウヘイは電話の向こうで軽く笑っているようだった。

きっとあきれ笑いだろうけど。

「エレベーターで友達のマキと一緒になっちゃって、裏口から帰るの怪しまれそうだったからとりあえずトイレ!って言ってまたエレベーターで10階まで上がってきちゃったの。」

ショウヘイがくすくす笑った。

「お前、変な奴だな。1階にもトイレあるだろうが。」

あ。

そういえば、ほんとだ。

ショウヘイに言われるまで気づかなかった。

だって1階のトイレなんてほとんど使ったことないんだもん。

マキは余計怪しんでるだろうな。マキから逃げてるのバレバレ。

まぁ、マキへの言い訳はまた夜ゆっくり考えればいい。

ショウヘイの部屋で。

そう思った途端に、胸の辺りがぶわーっと熱くなった。

今日からショウヘイの部屋で一緒に過ごせる。

「今から下に降ります。」

ドキドキする胸を押さえてショウヘイに言うと電話を切った。

新婚さんって、こんな気持ちなんだろうか。

好きな人と同じ部屋に帰る。

やっぱり結婚って素敵なことだ。

大好きな人と、同じ屋根の下で生活を共にする。

楽しいことも悲しいことも全て分かち合いながら。

ショウヘイは結婚で失敗してしまったから今は結婚に期待なんて皆無だろう。

でも、ひょっとしたら、私と一緒に過ごす二ヶ月で、やっぱり誰かと結婚したいって思ってくれるかもしれない。

思ってくれるといいな・・・。

10階のエレベーターの扉がゆっくりと開き、すばやく飛び乗った。

愛しい人が待つ1階に向かう10階から1階までの時間がどれだけ長く感じただろう。