「あ、本当だ。こっち裏口だったね。」

「えー、何やってんの。チサ、30過ぎで出口が分からないなんてやめてよー。」

マキはケタケタ笑いながら私の袖を引っ張った。

そして腕を組んで、表口に向かう。

ど、どうしよう。

その時、エレベーターが一基、1階に停まり人の波があふれ出て来た。

その波に紛れないように、マキの足が止まる。

エレベーターが最後の一人を降ろした。

松葉杖が見える。

誰だかわかっていたけど顔が上げられない。

なんとまぁ、逃れようのないシチュエーション。

こういう時、人間っていうのは開き直りっていうか、一か八かっていう賭に出る。

賭っていうか、どんな手を使ってもその場から逃れる術を必死で模索して実行に移せちゃうもの。

「ごめん!マキ!私急にトイレ行きたくなっちゃった!映画の時間もあるだろうし、先帰ってて。」

そう言うと、マキの腕をほどいて、今ショウヘイが出て来たエレベーターに飛び乗った。

誰も乗っていないエレベーターの「閉」ボタンをその勢いで押した。

マキの顔も、ショウヘイの顔も見れなかった。

もうどうにでもなれ!

っていうか、明らかに変な私をマキは一層怪しむだろう。

ショウヘイと二人顔を見合わせているかもしれない。

ショウヘイは、多分、わかってくれるだろう。

この居たたまれなかった状況を・・・。

とりあえずそのまま10階まで上がった。

トイレごときの嘘で10階まで上がる必要もないんだけど、なんとなく時間かせぎ。

自分を冷静に戻すためと、マキが完全にこの場から立ち去ってしまうまでの。

そのままトイレに駆け込む。

鏡にうつった自分の頬は真っ赤だった。

色んな緊張が一気に顔に上昇したみたい。

ふぅー。

大きく深呼吸した。

社内恋愛してる人達って、普段から相当な疲労だろうねぇ。

こんなことならいっそのこと「私達付き合ってます!」ってカミングアウトしちゃった方が楽かもしれない。

私達の場合は、「付き合ってないけど一緒に住んでます!」ってなるのかな。

一気に皆に引かれるだろうけど。