ショウヘイよりも一足先に人事部を後にした。

ウキウキしすぎて、私、今にやけてないかしら?

エレベーターに乗りながら、少し周りを気にした。

途中の階でエレベーターの扉が開く。

「あ、チサ!おつかれー。」

そう言って入ってきたのは、マキだった。

「お、おつかれさま。」

このタイミングでマキと遭遇するとは。

かなりやばいんじゃない?

「マキ、今日は随分早い帰りなのね。」

エレベータの扉が閉まり、ゆっくりと下に向かって動き出す。

「そうねぇ。最近あんまり残業してないのよ。30過ぎたらストレスは禁物だわ。」

エレベーターはけだるい表情のマキと、かなり心の中で焦っている私を乗せてゆっくりと1階に向かっていく。

「チサ、この後ひま?実は今日見たい映画があって、早めに出たのもあるの。一緒にどう?バリバリの恋愛モノよー!いい勉強になるんじゃない?」

「いい勉強って、気になるけど、今日はちょっと用事があるから帰るわ。」

「用事?何の?」

「い、家の用事。」

「家?」

1階に着いて扉がパーンと開いた。

エレベーターに乗ってるほとんどの人間が1階で降りていく。

私とマキもその集団に流されて降りた。

マキはニヤッと私に笑いかける。

「家の用事、なんて嘘でしょ。」

さすが、マキ。

彼女には一番怪しい「家の用事」は通用しなかった。

「本当よ。ちょっとね、母の具合が悪くて、買い物頼まれてるの。」

「ふぅん。」

マキは腕を組んで、斜め上から私を見下ろすような目線で頷いた。

その目線から逃げるように裏口の方へ歩みを進める。

「あら、駅の方はこっちだけど、チサは裏口から出るの?」

うわ、やばい。

だけど、もうそろそろショウヘイも降りてくる時間なわけで、私も裏口にいっとかないと、タクシーに一緒に乗れないじゃない?

変な汗が額にたまっていた。