化粧直しを終え、人事部フロアに戻るとショウヘイの姿があった。

私の方をちらっと見ると、軽く頭を下げた。

こちらがこんなにもドキドキしてるっていうのに、奴は相変わらず涼しい顔で私を見ても表情一つ変えない。

昨日、あんなこと・・・あんなことしたくせに、どうしてこんなにも平然としていられるのかしら。

それはよくあることだから?

単なる遊びに過ぎないから?

ショウヘイの横には松葉杖が立てかけられていた。

本当に骨折してるんだ。

嘘だとは思ってなかったけど、あらためて松葉杖を見て一瞬母性本能がわき出す。

とりあえず、昨日一緒に飲んでたし、お昼前の電話も受けた吉見で声くらいはかけた方がいいよね。

その方が自然だし。

「足、大丈夫?」

ドキドキする胸を押さえながら、彼の席に近づいた。

彼はパソコンにたまったメールに目を通しながら、

「ああ。多少不便だけどね。」

と言った。

「転倒して骨折だなんて、よほどひどいこけ方したの?」

「飲んでたし。あの時ボーッとしてたからかな。こんなこと珍しいんだ。」

あら、まぁ。強情なこと。

単にマキの言うように鈍くさいだけなんじゃないのって言いそうになるのを喉の奥で飲み込んだ。

「お大事にね。」

自分の裏腹な気持ちに堪えきれなくなった私は、その場を後にしようとした。

その時、ショウヘイはようやく視線を私に向けた。

「君の僕への借り、少し返してくれない?」

「借り?」

思わずショウヘイの顔をのぞき込んだ。

長い前髪から覗く切れ長の美しい瞳とまともに目が合う。

ドクン。

心臓が飛び跳ねて止まるかと思った。

借りの話なんて、職場で軽々しくしないでよね。

周りをさりげなく見回すと、幸いお昼後の戻りが遅いのか、近くのメンバー達はまだ席を外していた。

「借りを返すって?」

胸の鼓動が激しくなっていくのを感じながら、ショウヘイの目を見ずに尋ねる。