「おはよう、みんな!!」


彼が声を張り上げて教室に入って行く。

私は彼の3歩後ろをついて歩く。


「よう、小松。なんか言いたいことある?」

「なんもねえよ」


キラキラの笑顔が私に向けられる。

私も無理やり口角を上げてぎこちない笑みを浮かべる。


「晴香ちゃんに何かしたら俺が許さないから」


野球部の男子生徒を睨み付けてから彼は自分の席に戻って行く。

私はそんな彼を見て心で呟く。






ごめんなさい…









そう、香園寺くんは私がイジメられないように自分を犠牲にして私を守ってくれているんだ。


朝は一緒に登校し、放課後は図書館で私が彼の部活動が終わるのを待って一緒に帰ってもらっている。

このVIP待遇に香園寺ガールズが黙っているはずも無く、影でコソコソと私の悪口を言っていた。

それにも彼は対処すべく、クラスのグループラインで「 蒼井晴香が好きだ 」と公言したらしい。

それで彼に失望したのか香園寺ガールズのメンバーは減少の一途をたどっている。









確かに、香園寺くんのお陰で確かにイジメはなくなった。

だけど、完全に人と人の間にある目に見えない糸は絡まってほどけそうにもなくなっている。

私が絡めてしまった糸。

ピンと張っていたはずの糸は時間の経過と共に徐々に歪み、ねじれ、ついには絡まってしまった。

きっとこうなるまでにかかった時間の何倍もの時間をかけないと元には戻らないだろう。

私は取り返しのつかないことをしてしまったんだ。




キーンコーンカーンコーン…

キーンコーンカーンコーン…




今日もチャイムは遅れることなく鳴った。