階段は異様に寒い。

光がほとんど当たらないし、不要な机や椅子が積み上がっているしで本当なら来たくない。


でもここはなんとなく私の心の色と似ていて、何時間でも居られるような安心感がある。

お弁当の蓋をパカッと開けると、匂いが私の鼻を刺激する。
しかし、なんだかいつもと違ってお腹が悲鳴をあげている。

大好きなおにぎりが目の前にあるのに美味しそうに見えない。


「いただきます」


おにぎりにかぶりつく。
口いっぱいに梅の酸っぱさが広がる。

これがやみつきになるんだ。


さて、もうひと口…


口を開けようとしたけど、開かなかった。

おにぎりを口元に近づけても、口が開いてくれない。



…どうして?


私、どうしちゃったの?


大好きな梅のおにぎりなのに…


目は食べたいんだ。
恋しいんだ。

でも、心が拒絶している。





まさか…





思い当たるものがある。


私は知ってる。
昔、そういう人の話を結構聞いて、実際に目の当たりにしていたから。



でも、まさか

まさか私が…

そんなわけ―――――






無いよね?












自分が健全だと信じたかったが、現実は違った。


次の日も、その次の日も、私はお弁当の蓋を開けることができなかった。