キーンコーンカーンコーン…

キーンコーンカーンコーン…


午前8時25分。

チャイムは規則正しく鳴る。

廊下を走って急いで教室に向かう人が結構居るらしい。

ドタバタと足音が騒がしかった。




びしょびしょになった背中まで伸びた長い髪。


彼女たちの感情を一滴残らず吸収した制服。


見つめることを避けてきた自分の顔と対峙すると、瞼がかぁーっと熱くなってきた。






ダメだよ、晴香。

あいつらのために流すものじゃない。

とっておいてよ。



いつか、

いつか、

いつか、




起こらないか…


素敵なことなんて。


心がワクワクし、嬉しくなることなんて。






うっ…






泣くより先に呼吸が乱れだした。




はあ、はあ、はあ、はあ、はあはあ…


はほっ、はほっ、はほっ、はほっ、はほっ…


はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…






「みぃつけた」







この声は…








「おはよぉ、はるちゃん」


ヤツが女子トイレだと言うのに1ミリたりとも躊躇することなく入って来る。

そして、水浸しになったタイルに、アイロンがけがしてあり、一切シワのないズボンを気にすること無く膝をつき、後ろから私の身体に腕を回した。



「大丈夫だよ」



何回も大丈夫、大丈夫、大丈夫とヤツは唱える。


呼吸が徐々に落ち着いてくる。



はあ、はあ、はあ…


はあ、はあ、はあ…


はあ…―――――はあ…――――――



「大丈夫みたいだねぇ」


呼吸が正常に戻ったが、冷静さを取り戻した私はこの状況の異常さに気がついた。

完全にアウト。

レッドカードだよ。


「離れて。もう大丈夫だから」

「おれ、はるちゃんにそんなに隷属してないしぃ。命令される筋合いないよぉ」


いつかの私の言葉をそっくりそのまま返された。


「はるちゃん」


ヤツが私の名前を呼ぶ。


「はるちゃんは1人じゃない」


コイツ…


ど真ん中突いてくるのね。

ホント、すごいヤツ。

私より私のこと分かってるんじゃないのかなと思ってしまう。



心臓の音が聞こえてくる。

ドクンドクン―――――と一定のリズムを刻んでいる。

私の心臓とヤツの心臓の音が共鳴して心地よいリズムを奏でる。


不思議だ…


安心する…


眠ってしまいそう…


「…ーーー」


ヤツがなんか言ったみたいだけど、私の意識はふっと消えてしまった。

何もかも忘れて夢の中に落ちて行った。