久美さんセレクトの洋服や下着は大人の雰囲気のものばかりでステキだった。
でも……

「これはどうかと思う」

これはナイと主張したのに、押し切られた部屋着。

「あー、ダメダメ。絶対これだから」と引いてくれず、お風呂から出て着替えさせられた。

「…これで洋兄ちゃんを出迎えろと?」
目を細めて横目で久美さんを見る。

「もちろんよー!洋介がお金を出したんだからこの位サービスしてあげなくちゃ!」
と訳のわからないことを言う。

2人でもめていると玄関の方で物音がする。
洋兄ちゃんが帰って来た!
思わず久美さんの背中に隠れて顔だけ出す。

「ただいま。……志織、何してるの」

「お帰りなさい。えーっと、久美さんがね」と久美さんの背中でモゾモゾしていると「えいっ」と久美さんに洋兄ちゃんの前に押し出されてしまった。

「ぷっ」
洋兄ちゃんは吹き出した。

「久美さんっ、だからいやだって言ったのに!」
抗議したけど、久美さんは知らん顔をしてワインを飲んでいる。

「白猫か。うん、志織っぽいな」

私はふわふわとした半袖ハーフパンツだけど白猫の部屋着を着せられていたのだ。
パーカー部分は猫の耳とヒゲ付き。
ハーフパンツのおしりにはご丁寧に尻尾が付いている。

「志織」ちょっとおいでと手招きをする。

えー。「やだ。恥ずかしい」

「今日は疲れたなぁ。癒しが欲しいなぁ」洋兄ちゃんはニヤッとする。

「ほら、しおちゃん、飼い主さまが呼んでるわよ」
久美さんはいじわるを言う。

「ネコは気まぐれだから行かない」
恥ずかしいから走ってキッチンに逃げた。

「洋兄ちゃん、ご飯温めていい?先にお風呂に入る-?」とキッチンから叫ぶ。

「新妻のセリフみたいー」あははっと久美さんが笑った。
もうっ!
絶対おもちゃにされてる!
20年近く前と全く変わらないんだから。

おかげで酔った久美さんが寝てしまうまで私は彼のことも香取先生のこともチラッとしか思い出さずに過ごせた。