夕方、食料品の買い物をして帰宅した。

久美さんと一緒に夕食の支度をする。
何だか楽しい。
今夜の洋兄ちゃんの帰宅は遅いらしい。
久美さんはワインを飲みながら、私はノンアルコール。

今日のショッピングセンター内の香水売り場で吐き気がしたからお酒はやめておいた。

「ね、しおちゃん」
久美さんが真剣な表情をしている。そうしていると洋兄ちゃんにやっぱり似てる。
笑顔はあまり似てないんだけど。

「もしかして、妊娠とかじゃないよね?」

は?
そうか、私の吐き気。つわりかと思ったんだ。
「大丈夫です。100%無いです」

「そっか。よかった。洋介もさ、しおちゃんが心配だからこっちに来いって言うだけで何にも説明してくれないし、来てみたらしおちゃんやつれてるし」

悲しそうな顔をした久美さんを見ていたら、これまでの事を無性に話したくなった。
そういえば、洋兄ちゃんは私に何も聞いてこない。何を知っていて何を知らないのか、何も知らないのか全くわからないけど、私を受け入れてくれている。

「久美さん。実は……」
私は出会いから昨日までの事を泣きながら話した。
香取先生とのやり取りの辺りは吐き気がしたけど、久美さんに聞いて欲しかった。

久美さんは隣に座って私の手を握って黙って私の話を聞いてくれた。
話し終えても何も言わず私の頭をそっと撫でてくれた。

しばらくして、私の目を見て聞いてきた。
「しおちゃんはまだ彼が好き?」

「いいえ。もう好きだったのは過去の話です」
きっぱりと言った。

「今、しおちゃんを苦しめているものは何?」

「……彼が私と一緒にいてもあの人を受け入れたこと、
彼に信じてもらえなかったこと、
……彼に愛されなかったこと、
あの人に私の仕事を奪われたこと、
私が築いてきた職場の人間関係も業務もみんなダメにされたこと」

仕事を思い出して涙が溢れて止まらない。
久美さんに抱かれて大声を出して泣いた。

久美さんは洋兄ちゃんのように私をあやした。
優しく温かい。

私が落ちつくとミネラルウォーターを差し出して言った。
「しおちゃんは全てを失ったわけじゃないと思うけど?」

「でも、職場だって迷惑かけて普通に働けないし」

「みんながしおちゃんを拒絶しているの?」

「……違いますけど」

「みんなにもいずれわかるわよ。それに、しおちゃんには私や洋介がいるでしょ」
にっこりと笑って私を抱きしめた。

「こんなに美しい姉の私やかっこいい洋介がいるのに、しおちゃんは他に何が欲しいのよー」

「へへっ。そうだね。私は贅沢だね」
笑えてきた。
「そうでしょ」と笑う久美さん。
美しく優しく逞しい久美さんには勝てないや。