「藤野さん、香取先生に恨まれるようなことしたの?」
主任が小声で聞いてきた。
たぶん、彼の事なんだろうけど、確証もないし、私と彼の関係も公表していないから話せる内容は何もない。
「わかりません」としか言い様がない。
「あんまり痛いって言うから整形外科の先生を呼んだのに、赤くも青くもなってないし。私にはヒステリックにあなたの悪口を言っていたのに整形外科の先生が来たら『痛いんですぅ。ひどい事されてぇ』なんて目を潤ませちゃって。何なの」
「おまけに『片方のハートのピアスがない』って言い出してね。転んだ拍子に落としたからあなた達が探しなさいよってな感じ」
主任は午前中、香取先生の相手をしてくれていたらしい。
わたしが看護部長室にいる間にそんな事があったんだ。
ますます申し訳ない。
「あんまり腹が立ったから『転んだくらいで落とすようなアクセサリーを付けてくるなんて医療従事者として不注意ですよ』って言ってやったわ」
主任は腹立たしいと言って鼻から大きく息を吐いた。
師長は難しい顔のまま私の目を見て言った。
「私も主任もあなたが真面目に仕事をしているのはよく知っているわ。でも、今の状態はICUにとってよくない。あなたと香取先生の間に何があったのか、問題が解決しないと配置転換もないとは言えない。私はあなたを守るつもりだけど、あなたも問題がないか動く必要があるわね」
「はい…」
私は病院を出ると自宅アパートではなく彼のマンションに向かった。
1人ではいられなかったから。
落ち着かなかったから、たまった洗濯物を片付け、お風呂掃除をした。
ベッドのシーツも替えようと枕を手に取ると、何かがコロンと床に落ちた。
あれ?
床に落ちたのはハートのピアスだった。
ああ、やっぱり。
あの人はここに来ていた。
震える手でクローゼットを開け、その中の私の荷物を見ると部屋着にしていたスエットとワンピースが無くなっていた。
洗面台の化粧ポーチを見るとポーチはあるけど中身が無くなっている。
この部屋に来た香取先生の仕業か…。
水槽の前のソファーで震える身体を自分で抱きしめるようにして丸くなり彼の帰りを待った。
主任が小声で聞いてきた。
たぶん、彼の事なんだろうけど、確証もないし、私と彼の関係も公表していないから話せる内容は何もない。
「わかりません」としか言い様がない。
「あんまり痛いって言うから整形外科の先生を呼んだのに、赤くも青くもなってないし。私にはヒステリックにあなたの悪口を言っていたのに整形外科の先生が来たら『痛いんですぅ。ひどい事されてぇ』なんて目を潤ませちゃって。何なの」
「おまけに『片方のハートのピアスがない』って言い出してね。転んだ拍子に落としたからあなた達が探しなさいよってな感じ」
主任は午前中、香取先生の相手をしてくれていたらしい。
わたしが看護部長室にいる間にそんな事があったんだ。
ますます申し訳ない。
「あんまり腹が立ったから『転んだくらいで落とすようなアクセサリーを付けてくるなんて医療従事者として不注意ですよ』って言ってやったわ」
主任は腹立たしいと言って鼻から大きく息を吐いた。
師長は難しい顔のまま私の目を見て言った。
「私も主任もあなたが真面目に仕事をしているのはよく知っているわ。でも、今の状態はICUにとってよくない。あなたと香取先生の間に何があったのか、問題が解決しないと配置転換もないとは言えない。私はあなたを守るつもりだけど、あなたも問題がないか動く必要があるわね」
「はい…」
私は病院を出ると自宅アパートではなく彼のマンションに向かった。
1人ではいられなかったから。
落ち着かなかったから、たまった洗濯物を片付け、お風呂掃除をした。
ベッドのシーツも替えようと枕を手に取ると、何かがコロンと床に落ちた。
あれ?
床に落ちたのはハートのピアスだった。
ああ、やっぱり。
あの人はここに来ていた。
震える手でクローゼットを開け、その中の私の荷物を見ると部屋着にしていたスエットとワンピースが無くなっていた。
洗面台の化粧ポーチを見るとポーチはあるけど中身が無くなっている。
この部屋に来た香取先生の仕業か…。
水槽の前のソファーで震える身体を自分で抱きしめるようにして丸くなり彼の帰りを待った。