それでも、そんな私の事が気に入らないと思う女子に絡まれる事があった。
高校生の頃、駅のホームで他校の女子高生3人組に囲まれた。
「あんた、何ヒトの彼氏に色目を使ってんのよ」
「ナマイキよ」
「ふざけんなよ」トンっと肩を押される。
「やめて下さい。何のことかわかりません。危ないじゃないですか」
言いがかりだと小さく反論すると攻撃はエスカレートする。
「ヒトの彼氏奪っていて何言ってんのよ」
「死ねば、ブス」
「何にも知りませーんって顔して裏で何してんだか」
「すぐやらせちゃうとかー?」
ギャハハハと下品に笑う。
何なの、この人たち。驚きと恐怖が私を包み動けない。
「何とか言いなさいよ!」
「土下座でもすればっ」
再び私の肩がどんっと押される。
今度は強くてよろける。
「やめなさい」
私の背後から女性の声がした。
振り向くと洋兄ちゃんの2歳上のお姉さん、久美さんだった。
久美さんは私を自分の背中に隠した。
「あなたたち、何をしているの」
低く目のでもはっきりとした怒りの滲む声で言い放った。
久美さんはかなり美人で、一緒に歩いているとナンパはいつものこと。たびたび芸能関係のスカウトをされているところにも遭遇した。
でも、本人は芸能界には少しも興味が無く、建築士の資格をとり今はバリバリと働いている。
そんな久美さんは女子高生のひとりひとりに目を合わせてきれいな顔で威嚇した。
「私の妹に何をしているのかって聞いて、い、る、の!」
3人組はビクッとした。
「だって、この女が私の彼を取ったから」
「そうだよ」
「悪いのはそっち」
攻撃のトーンは落ちたが、内容は理解できない。
「しおちゃん、そうなの?」
久美さんが振り返り優しく聞いてくる。
「違いますっていうか知りません。何のことか誰の話なのかも」
久美さんはまた3人組を見る。
「だって、健司があんたと付き合うから私とは別れるって言ったのよ!」
3人組の1人が叫んだ。
久美さんが『健司さん』って誰?という表情をしたが、私も知らない。
「健司さんってどなたですか?」
「はぁ?」
「S高校のサッカー部の」
「知らないはずないでしょ」
いや、知らないものは知らない。
久美さんに助けを求める視線を投げた。
「話が噛み合わないわね」久美さんも眉をひそめた。
「しおちゃん、お付き合いしてる男の子はいないんでしょ?最近誰かに交際を申し込まれなかった?」
「誰とも付き合ってません!学祭の時に声をかけてきた男子と朝の電車で出会う男子にはお付き合いをと言われましたけど……お断りしてます」
久美さんは冷たく3人組を笑った。
「しおちゃんに彼氏はいないし、あなた達の勘違いじゃないかしら?」
そして、ハイヒールのつま先をカツンと踏み鳴らす。
「自分の魅力がなくてフラれた腹いせにうちの妹に八つ当たりなんてね。笑っちゃうわ」
3人組が口を挟むヒマもなく
「二度とくだらないことでうちの妹をまきこまないでちょうだいね」
とさっきまでの冷たい笑いをひっこめて、最強で最高の女優のような笑顔を見せた。
すごい、オーラって出したり消したりできるの?ってくらい圧倒される。
あまりの女としての格の違いっていうんだろうか、存在感にくらくらしそう。
それを見て3人組は逃げて行った。
「しおちゃん、災難だったわね」
私の頭をそっと撫でながら慰めてくれる。
「久美さん、ありがとう」
泣きそうになる。
そして、それから久美さんが、女性から威嚇された時の撃退法を伝授してくれた。
相手を圧倒する程の自分の最大最高の上品な笑顔を見せなさいと。
「しおちゃんを相手にしたら普通一発でその場から逃げ出すはずよ」
「もし、逃げない女がいてもしおちゃんは引いちゃダメ。相手がしおちゃんより自分の方が上だって思ったら嫌がらせは続いてしまう。」
「私はあなたなんか気にしてませんって天女さまみたいに微笑みなさい」
女同士のマウンティングって大変なのよー
しおちゃんは美人だから、将来きっと苦労する。
ここ一番って時はこの撃退法だよ。
そう言われてきた。
まさか、職場で使うとは思わなかったけど、あの女医さんの態度にカチンとして使ってしまった。