「あ、石田先生お疲れさまでーす。今日は当直ですよね」

小出さんと早川が巡視から戻ってきた。小出さんは木村さんと同期だが、彼女は後輩に優しい。早川は私の同期。

「ああ、小出さんも早川さんも歓迎会欠席組か」

「そうですよ。ま、木村達がイケメンドクターを囲んで騒ぐ会なんて欠席した方が気が楽だって話もありますし」
小出さんがそう言って笑うと「そうそう」って早川も同意する。


「お疲れさま。明日転科の患者さんの資料見せて」

そこに心臓外科医の横山先生が入って来た。
28才。大柄でイケメンではない。しかも、少し人見知り気味で付き合いが難しい医者と言われている。ちなみに既婚者。

私とは良い友人関係である。

「あ、横山先生。遅くまでお疲れさまです。はい。これですよ。どうぞ」

「なぁ、今から指示出ししていい?」

横山先生は私をチラッと見た。私が指示受け作業をしているのに気が付いたらしい。

「今さら1つ2つ指示が増えても何てことありませんからどうぞ」
とにっこり笑いかける。

「うわっ、ラッキー」

「ただし、前回のフカヒレの姿煮、またごちそうして下さいね」

「うわっ、やっぱ鬼じゃん」

「当たり前です。更に仕事を増やされるんですから」

キッパリ言い切ってにやっとしてやった。

「ちぇっ、いいよ、わかったよ。勤務表あいつに送っておいて」

「了解です」

ふふふ。フカヒレの姿煮だ。
浮かれていると石田先生の驚いたような声がした。

「え?2人って何?仲良し?付き合ってる?」

「いえ、横山先生の奥さまは私の大学の友人なので。私は恋人でも不倫相手でもありません。あり得ませんよ」

「そうなんですよ。藤野相手に不倫とかあり得ませんね」

2人で笑う。
私たちが不倫だなんてない、ない。
同じ職場で話をするうちに偶然、先生の奥さんが私の同級生だとわかり、そのうち一緒に食事に行ったりする友人関係となったのだ。

二人きりで出掛ける事は無い。
奥さまの直子と3人だったり、横山先生の後輩ドクターと私の同僚ナースと複数人で行く。
前回のフカヒレの時は直子と一緒だった。

ちなみに普段は横山先生とこんな風に親しくやりとりをすることはない。
小出さんも早川も私と横山先生の関係を知っているからだ。

「へぇー、世の中って狭いね」
石田先生が驚いたように言った。

「本当にね」
うんうんと肯く。