洋兄ちゃんは横山先生たちと飲んでいた。
周りには女性の姿もあるけど、男性の方が多い。

いいなぁ、洋兄ちゃん。
こんな人が恋人だったら、浮気とか心配なさそう。
恋人の周りにいつも女性がいたら心配で仕方なくて、心が疲弊しそうだもん。

なぜかイケメンドクターと洋兄ちゃんを比べていた。
あのイケメンドクターの周りにはいつも女性がいるし、飲み会に誘われている姿も度々見かける。
あんな人の恋人はさぞかし気が休まらないことだろう。

「志織ちゃん」
杉山部長に声をかけられた。

「今日はゆっくり話す時間がなくて残念だったよ」

「私もです」

「実は新しい写真集を手に入れた報告をしたかったんだよ」
新しい玩具を手にした子供のようにキラキラと目を輝かせている。

「ええっ、もしかしてこの間のイタリアの学会の時ですか?」
私も前のめりになってしまう。
見たい、見たい!
「どんな感じのですか!」

「今度外来診療が終わった時間に外来に見においで。外来ナースには言っておくから」

「はいっ!」

杉山部長と私は共通の趣味があった。
私が好きなのは海底遺跡。

私は中耳炎を起こしやすくスキューバダイビングを諦めていたから、もっぱら写真集や動画サイトなどを眺めて歴史的ロマンに浸っているのだ。
杉山部長は与那国島などに実際に潜って見てきている。全くうらやましい限りだ。

イタリア学会ってからにはイタリアの海底遺跡の写真集かと思ったら、カリブ海のものだという。

「やっぱり、海はロマンですね」
「いや、全くだね。簡単には解明できない謎だらけだよ」

海の底に思いを馳せる。簡単には手が届かず、謎の解明もしにくい。研究者にとってはじれったいだろう。しかし、私のような海底遺跡ファンにとってはロマンそのもの。

「週明けの月曜と火曜日は早出勤務なんです。どちらか勤務後に外来にうかがってもいいですか?」

「うん、じゃ火曜日にいらっしゃい。たぶん残業しているから」

やったー!
早く火曜日にならないかな。