「池田先生」
女子の輪の中に身体を突っ込んで洋兄ちゃんの側に行く。

「藤野さん、どうしたの」

「とーってもお世話になってるセンパイを紹介してもいいですか?」
ああ、周りの女子の目がイタい。

「いいよ。誰?」

「すみません、池田先生をお借りします」

洋兄ちゃんの腕を軽くつかんで女の輪の中から引っ張り出す。
えーという声が聞こえるけど、私は無視。
洋兄ちゃんは「ちょっとごめんね」と謝っている。

ぐいぐい引っ張って木村さんの所に連れて行く。
「志織。今のはちょっと強引だったけど、後で大丈夫?」

「ごめんね、洋兄ちゃん困ってなかった?助けようかと思ったんだけど。ダメだった?もしかして、あのままでよかった?」

「いや、そんなことないよ。どこで切り上げようか考えていたからね」
ありがとうと私の頭をぽんぽんとした。

ふふっ。
洋兄ちゃんやっぱり大好き。

「藤野。私はどうなったのよ」

「あ、木村さん。洋兄ちゃんのあまりの格好良さに思わず
忘れてました。って、ウソですよ」

へへっと笑って「こちらがとーっても私がお世話になっている木村先輩です」と紹介する。

「何だかトゲがある言い方じゃない」と文句を言いながらも洋兄ちゃんに視線を合わせてにこにこと挨拶している。

洋兄ちゃんも「志織から僕との関係を聞いてますか?」と確認した上で「今後ともよろしく」と優しい笑顔で木村さんを虜にしていた。

「藤野、アンタがスー先生になびかなかった理由がわかったわ。こんなイケメン見慣れてたら、スー先生見ても驚かないわよね」
木村さんがうんうんと1人で納得している。

「あれ?スー先生って周布先生?今、この病院なの?」
洋兄ちゃんが不思議そうな顔をする。

「そうです、周布先生」
木村さんが答える。

「その周布先生と志織が何?」

「洋兄ちゃん、周布先生知ってるの?」

「そりゃ、知ってるよ。大学の一期下。確かボート部の部長だっただろ。格好いいって学内で有名だったよ」

へぇー。
やっぱり学生時代から有名人。雲の上の人なんだねー。
うん、納得だ。

「スー先生が今、藤野に夢中なんです」

「え?藤野って?何、志織、周布先生と?」

「木村さん、誤解を招く言い方はやめて下さい」

木村さんがニヤニヤするから即座に否定する。

「からかわれてるの。私が周布先生のとりまきに入らないからだと思う」

「からかうって、具体的には?」

洋兄ちゃんは私をのぞき込む。

「大丈夫だよ。変なことされてるわけじゃないから」

チラッとイケメンドクターを目で探すと、やはり若いナース達や研修医に囲まれてにぎやかにしていた。

「何か困った事があったら言えよ。木村さんも志織のことお願いします」

木村さんは洋兄ちゃんに見とれている。

「もちろんです。お任せ下さい」

何言ってるんだか、あなたはけしかける側のヒトですよね?
私は苦笑した。