そこから更に私はイケメンドクターを避け続けた。

そんな私をあざ笑うかのようにイケメンドクターはわざと私に話かけたり、やたらとからむようになり、さすがに、違和感を感じる人達も出てきてしまった。

今夜の夜勤のパートナーはいつかと同じ、木村さんと鈴木さんだ。コーヒーブレイクしていたら鈴木さんがねぇねぇと前のめりになってきた。

「ねぇ、藤野さん。周布先生と何かあった?」

ドキッとする。何かあったといえばあった。
平静を装って返事をする。

「何にもない…と思うんですけど。私は」

「藤野、あんた、スー先生にそうとう気に入られたか気に入らないからのどっちかなのよ」

「ええっ。何ですか、それ。私、どうしたらいいんですかっ」

思わず、木村さんにすがり付いた。

「だって、あんただけじゃん。スー先生に話しかけられても笑顔無しなの」

「ああ、それが周布先生的にツボなのかしら?藤野さんって患者さんには笑顔よねー」

「私は誰に対しても笑顔ですよ。…たぶん」

「いや、それ違うよね」

木村さんに即座に否定される。

確かにイケメンドクターには笑顔無し対応です。
だって、関わり合いたくないんだもん。
あんな人気者と笑顔で関わっていたら、ここまで頑張って築いた他の人達との人間関係壊れそうだし、イケメンドクターが何だか何を考えてるのか全くわからない。

木村さんとだって、やっと雑談できるような関係になったんだから。
木村さんとよく話をしてみたら、お互い誤解をしていたことがわかって前より親しくなれた。

山本さんの息子さんの件も話してみれば納得だった。

私にフラれたと思い込んだ山本さんの息子さんがヤケ酒をしていたお店に、偶然木村さんが居合わせて、私に手紙を渡したことを聞いたというのだ。

山本さんの息子さんは手紙に自分の連絡先を書いたつもりになっていた。

だから木村さんは私のことを連絡もせず無視する女だと思ったらしい。しかも、木村さんの同期のナースが山本さんの息子さんの事が好きだったらしく、怒り倍増。

私が経緯を話すと、木村さんは呆れていた。

「あんたに非がないわけじゃないけど、山本ってバカね」

お付き合いする気はないが、結果的にすっぽかしてしまった事を謝りたいから山本さんの息子さんの連絡先を教えて欲しいとお願いした。

「あんたから連絡がきたらまた勘違いするかもしれないから、私から伝えておくわ」

木村さんはそう言ったけど、本当に伝えてくれたかどうかはわからない。
たぶん、木村さんの同期のナースが傷心の山本さんの息子さんにアプローチしているだろうから。私がすっぽかしたわけじゃないって事実は隠しておきたいだろう。