4月になり、新しい研修医とナースが配属されて私も無事に3年目になった。

今日は病棟主催の歓迎会。
珍しく循環器内科と心臓血管外科、CCUと合同のかなり大掛かりな宴会になっている。

3月の送別会はたまたま準夜勤のナースがインフルエンザになってしまったため、私が代わりに勤務することになって欠席した。

なので、職場の飲み会は忘年会以来。

プライベートの飲み会は行ってるから、別に飲み会が久しぶりというわけではない。
あれから横山先生とフカヒレ食べたし。

だいぶお酒がすすんできたところで
「おーい、藤野さーん」
上座で私を呼ぶ声がする。

「藤野、お呼びだね」
「仕事の時間だ、頑張っておいで」
「行ってらっしゃい」

「はい、はい。行ってきます」

自分のグラスと瓶ビールを持って立ち上がる。
お呼びがあるだろうと宴会の始めから飲むより食事をしておいたから、大丈夫。

「杉山部長、お疲れさまです」

私は笑顔で杉山部長の隣に座りビールを差し出した。

「詩織ちゃん、待ってたよ」

杉山部長はうっすらと赤い顔をしてニコニコしながらグラスを空にした。

「はい、関川くん、詩織ちゃんに席を譲って」

当然のように関川先生が自分のグラスを持って立ち上がる。
移動しながら私にそっと耳打ちする。

「小鉢の料理は手を付けてないから、食べながら飲んでね」

関川先生と目を合わせてにっこりとうなずく。
ご配慮感謝します。

「杉山部長、そろそろ日本酒にしますか?」

「うーん、このビールを飲みきったらそうしようかな。詩織ちゃんは何飲むの?」

「私はオレンジジュースで」

「何を、この酒豪が」

「はい、嘘です。私も日本酒を頂きます」

はははっと2人で笑い飲む、そして飲む。

そうなのだ。
私は杉山部長のお気に入りで病棟の宴会では杉山部長専属の接待要員なのだ。

杉山部長は50代半ば。仕事だけでなく普段から少し気難しい人で、お酒が入ると部下にお説教する上司なのだが、何故か私にはフレンドリー。でも、もちろん仕事でミスしたら私も叱られるはずだ。

かなり昔に嫁いでしまった娘さんに似ているとか奥さんの若い頃に似ているとか昔の彼女に似ているとか。真相はわからない。

でも、私が杉山部長と飲んでいるだけで、他の皆さんは楽しいお酒が飲めるわけだし、私も別にセクハラされる事なんて無いし苦痛ってわけじゃないからこれはこれでアリだろう。
決してパワハラでもセクハラでもないことは断言しておく。

部長は2次会には来ないから、仲良しの先輩や同期と楽しむのは2次会でいいと割り切っている。
それに、部長の話はかなり面白い。