ねぇ、この出会いは間違いだったかな。
恋なんてしなければ良かったかな。
たとえ世界中の誰もがこの恋を否定したとしても、君に出会えて良かったと心からそう思えるよ。
この気持ちに嘘はないから。
今この瞬間も全てが宝物だから。
俺はいたって普通の男子。
明るくもないし暗くもない。多くはないけど友達もいる。
顔立ちだって特に目を引くというわけではない。それでも俺は自分の手で誰かを助けたいと思う。
誰かに話したら笑われるだろうけど、俺はそう思うんだ。
泣いている人は助けたい。笑っている人とは喜びを共有したい。楽しくないと感じている人は笑顔にしたい。
もちろん俺だって気楽に生きているわけじゃない。悩みだって辛いことだってある。
それでも前向きに生きていれば自然と笑える。そうしたら周りだって笑顔になる。
ただの自己満足かもしれないけど、俺は誰かの力になりたい。
誰かが頑張るのをそばで見て支えたいんだ。
そっと桜の花びらが舞う。
触れたら壊れてしまいそうな美しくて儚くて切ない桜。俺はそんな人を守りたいと思う。
桜にはきっとみんなの憧れが詰まっているんだろうな。そんなことを考えながらまた前を向いて歩きだす。
俺の名前は広瀬迅(ひろせじん)。
この春、高校1年生になる。
高校は家から遠い場所で知り合いもあまりいない。行ったことのない場所で不安もあるけど、そこは桜が綺麗なんだ。
俺は昔から桜が好き。小さい頃は桜の木の下でずっと走り回っていたらしい。
女子みたいだけどお花見だって行くし、眺めては写真を撮ったりもする。
春にしか咲かなくて儚い感じがするけど、俺達の祝福を高いところから祈っている強くて優しい木なんだ。
そう、君との出会いは必然で、この思い出はきっと消えることはないんだろう。
桜にのって訪れる春とともに俺の恋も始まったんだ。
愛して愛されて、傷ついて傷つけて。大人達は「そんなのバカだ」って笑うかもしれない。
それでも、俺の中では永遠に色褪せない思い出だから。今の俺があるのは君のおかげだから。
その儚さも、切なさも。
その強さも、優しさも、美しさも。
怒った顔も、泣いた顔も、笑った顔も。
全部全部、好きだった。君がいれば何も望まないはずだった。
それなのに俺達はどこで道を間違えたんだろう。この恋が普通だったなら幸せになれたんだろうか。
そんなのわからない。わからないからこそ幸せと希望を信じて走り続けるんだ。
いつまでも君の幸せを祈って─────。
好きになってごめんね。
幸せにしてあげられなくて。
ずっとそばにいられなくてごめんね。
君との出会いも桜が美しい場所だった。
快晴の空。咲き乱れる桜。今日は入学式。
余裕をもって家を出たから少しなら大丈夫かな。そう思って、駅から少し進んだ場所で足を止める。
「わ、綺麗……」
目の前に広がるのは桜の木。どれを見ても綺麗だな、と思いながらスマホを構える。
咲いたばかりなのにもう消えてしまいそうな桜を手で包み込んでみる。
「今年もよろしくね」
そう呟いて写真を撮ると。
「……桜、好きなの?」
後ろからそんな声が聞こえて慌てて振り返る。そこには同じ学校の制服を着た女子がいた。
「あぁ、うん」
可愛い子だな。この時間にここにいるってことは俺と同じ1年生かな?
綺麗な顔立ちに小柄な体、肩まで伸びた髪、白く透き通るような肌。
この子、まるで……。
「君は桜みたいだね」
会って早々変な人だと思われたかな。そもそも桜が好きな男子なんて変だよね。
切なくて儚げでどこか守りたくなるような、それでも瞳の奥から強いものを感じる。そんな女の子。
「そんなこと、初めて言われた」
そう言って彼女は微笑む。
────ドキッ。
名前なんて知らないけど、このとき確かに心臓が音を立てた。それがきっと全ての始まりだったんだ。