「渚!楽しみすぎて眠れないよ!」


〈その割には嬉しそうだな〉


星那ちゃんとデートなんて、いつになっても慣れなくてドキドキしてしまう。



今日は12月23日。そう、明日はクリスマスイブ。


星那ちゃんと一緒に駅前のイルミネーションを見に行くんだ。そのことについて今は渚と電話で相談中。


一緒に出かけるなんて夢みたいだよ。今までだってデートをしたことはあるけど緊張する。



何話そうかな。どんな服着ていこうかな。プレゼント喜んでくれるかな。


頭の中が彼女でいっぱいになって、とても眠れる状況ではない。


こんなこと言ったら引かれてしまうかな。また彼女のことを考えている自分に気づいて不思議な気持ちになる。

こんな気持ち、彼女と出会うまでは知らなかった。


こんなにも好きな人に出会えて、そして付き合えるなんて、俺って幸せ者だなと思いながら話を続ける。



〈……で?プレゼント渡すんだろ〉


「うん!ブレスレットなんだけど喜んでくれるかな」


クリスマスプレゼント。形に残る物を渡したくて必死に悩んでいたときに、彼女に似合いそうな薄ピンク色のブレスレットを見つけた。


見た瞬間「これしかない!」と思って、値段なんて気にせずに買ったんだ。



〈迅が選んだなら間違いねーだろ〉


「そ、そうかな……?」


でも、身につける物を渡すなんて重いって思われないかな。


まだ付き合ってから4ヶ月くらい。それでも俺の “ 好き ” は毎日積もっていく。


星那ちゃんも少しは意識してくれているかな。そうだったら嬉しいんだけど。

〈だって、迅より篠原を見ている奴なんていないだろ。大丈夫だ〉


「そっか……そうだね。ありがとう」


珍しく励ますような言葉を投げかけてくれた渚。


でも、でもね。俺がどんなに星那ちゃんを見ていても彼女も見てくれないと意味がないんだよ。


まだ江崎くんのことを引きずっていると思うから。




球技大会の日。俺は江崎くんを見つめる星那ちゃんの姿を見てしまった。


敵わないってわかっていたけど、どんなに俺が近くにいても彼には勝てないんだと思い知らされた。


でも、彼女だって前に進もうと頑張っている。少しずつだけど心を許してくれていると思うんだ。


だから明日は俺がリードしよう。そう心に決めた。


俺といるときは俺のことだけを考えていてほしい。彼女にも俺のことで頭をいっぱいにしてほしい。

〈……じゃ、俺寝るから〉


「うん、おやすみ」


そう言って渚との電話を切る。今の時刻は10時。高校生ならもう少し起きていても不思議ではないのに。


早寝早起きで規則正しい生活をしている渚は、毎日9時には寝ているらしい。


それなのにいつも眠そうにしているのはどうしてなんだろう。



「ふう……」


明日のことを考えつつも球技大会の日のことが脳裏をよぎる。




星那ちゃんとグラウンドの隅で話してから俺達は体育館に戻った。そして少し晴れた心で5組の審判をした。


でも、間近で江崎くんの活躍している姿を見るととても胸が痛んで、彼女の瞳が輝いていることに気づいて肩を落とした。


もちろん彼女が江崎くんに未練があることは知っているし、それもわかった上で俺達は付き合ったつもりだった。


それでも俺だけを見てほしいと思うのはワガママなのかな。


◇◆◇



「迅くんっ」


フワリと眩しい笑顔を見せて俺の方へ駆け寄る星那ちゃん。


そう、今日はデート当日。彼女の家の最寄り駅で待ち合わせをしてこれから街へ行くんだ。



「ごめんね、お待たせ」


「ううん、全然待っていないよ」


うわぁ、可愛い……。


ピンク色のダッフルコートに下は清楚な白のスカート。あたたかそうなムートンブーツを履いて、可愛らしいウサギがついたバッグを肩にかけている。


学校ではポニーテールにしている髪の毛も今日は下ろしているみたい。



本当にこんなに可愛い子が俺の彼女なんだろうか。


どうして俺なんかと付き合ってくれているんだろう……って、ダメだよ。


今日はネガティブなことは考えないって決めたんだ。ずっと楽しい気分で過ごすんだから。

「迅くん、イルミネーションまで時間あるけどどこに行く?」


「うーん、そうだね。街でも歩こうかな?」


前まではこんなやりとりを交わすことになるなんて思ってもなかった。俺が星那ちゃんの隣を歩くなんて不釣り合いにも程がある。


こんなに可愛い彼女と平凡な俺。釣り合うわけがないのは一目瞭然なんだから。



「それなら行ってみたいところがあるんだ」


思いついたように彼女はそう言う。無邪気に笑う顔が眩しくて寒さなんて吹き飛んでしまう。



「そっか、じゃあ一緒に行こう」


嬉しそうに歩き出す彼女のあとを少し遅れてついていく。頬が緩まないように自然に振る舞う。


でもね、星那ちゃん。今日はこうしてはいられないんだ。

「え……?」


星那ちゃんが驚いたのはきっと─────俺が手を握ったからだろう。こんなことをしたのは夏祭り以来だから緊張する。


でも、今日は自分からするって決めたからその手を離してもらうわけにはいかないんだ。



「こうしているとあったかいね」


てっきり手を振りほどかれると思っていたからその爆弾発言には驚いた。


『あったかいね』なんて可愛すぎだよ!


そんなことを言われたら、いつまでもこの手を握っていたいと思ってしまう。そんなの夢だとしてもおこがましいのに。



「……やっぱりこの方がいいかな」


ボソッと呟くと……あ、また顔が赤くなった。


本当にわかりやすいな。クルクルと変わる表情はいつ見ても飽きない。

「うん、私も……」


照れくさそうに星那ちゃんはそう言った。握った手を少し離して恋人繋ぎをする。


また俺の心臓がドキドキと鳴り響く。会話があまりないからか、その音がいっそう大きく聞こえる。



「あの……」


「あのさ……」


会話を弾ませようと話題を振ろうとすると、彼女も同じことを考えていたみたいで言葉が重なった。


どちらからともなく笑いが漏れる。



「ふふっ、迅くんからいいよ」


「ううん、星那ちゃんから言ってよ」


そのやりとりを何回か繰り返す。こんなに自然に話せるなんて思わなくて少し驚いてしまう。

「じゃあ、私から言うね」


どちらも折れなくて最終的には星那ちゃんから言うことになった。



「お願いなんだけど……星那って呼んでくれないかな?」


「えっ?」


思わず変な声が出てしまった。それもそのはず。だってそれは俺の考えていたことと全く同じだったから。


しかも、その言葉が聞けるなんて思わなくて、嬉しくて心の中でガッツポーズをした。



「ダメかな……?」


無意識だろうけど上目遣いで見つめられる。可愛すぎて俺の心臓がもたないよ。




「星那」


やっと口に出せた。ずっと呼びたかった愛しい人の名前。


想像していたよりもずっと恥ずかしい。名前で呼ぶなんてもっと簡単なことだと思っていたのに。