「ちょっとー!教室でイチャイチャしないでくれる?」


……と、甘い時間に邪魔が入り我に返る。周りの人は好奇の目を向けていて。


俺、今……何してた?



「迅も大胆なことするんだな」


「わ、ち、違うよっ!」


慌てて否定するけどもう遅かったらしい。それからはホームルームまで質問攻めにあってしまった。



◇◆◇




「どうしてスポーツなんてしなきゃいけないわけー!?」


「……うるせーよ、黙っとけ」


大声で叫ぶ橋本さんとそれに冷たくツッコミを入れる渚。


この光景、何度目だろう。そう思うくらいこのふたりも仲がいい。


そんなこと言ったらきっと否定するだろうけど、俺は早くこのふたりに付き合ってほしい。

「球技大会なんてめんどくさーい!」


「……だから、うるさい」


夏も終わり涼しくなってきた10月。そのせいか球技大会があるんだ。


種目は、男子はサッカーとバスケ。女子はバレーとバスケらしい。



「運動できないあたしがバレーなんてありえない!」


「美紀、一緒に頑張ろうよ」


嘆く橋本さんを星那ちゃんは元気づけようとする。


そっか、彼女もバレーなんだ。きっと球技大会も大活躍なんだろう。



「俺もバスケ苦手なんだよね。渚はどう?」


「俺も得意じゃない」


クールな渚は、活発に動くようなことは好きじゃないらしい。出る種目はサッカーみたいだけど大丈夫かな?

「でも、星那も広瀬くんも大変よね。実行委員になるなんて」


……そう、そこが1番の難点なんだよね。なんと俺と星那ちゃんは球技大会の実行委員になってしまったんだ。




帰りのホームルームで先生から球技大会の話があり、委員を決めることになった。


それはクラスから男女ひとりずつ選ばなければならないらしくて、先生は部活に入っていない生徒に向かって順番に聞いていたんだ。


もちろん星那ちゃんも聞かれてしまった。


他の人達は『バイト』『家の手伝い』『塾』とか、理由をつけて断っていたのに。



『え、えっと……用事は、ない、です……』


彼女は優しいから先生の頼みを断りきれなかったんだ。


そこは適当な理由をつけて断れば良かったのに、って思ったけど、素直なところは彼女のいいところ。


相変わらず可愛いな、と思いながらクスッと微笑んでいると。

『篠原、男子でやりやすい人はいるか?』


と、先生に問われて一瞬にしてクラスの視線は俺に突き刺さる。


『え……?』


『迅くん、ダメ……かな?』



────ドキッ。



そんなに可愛く聞かれたら断れるわけない!


それに、他の男子と一緒に委員会をするなんてそんなの嫌だ。


『俺、やります』


答えは当然YESしかなく、俺と星那ちゃんは実行委員になったんだ。




「ごめんね、迅くん……」


「大丈夫だよ。星那ちゃんと一緒にできるなら委員会だってきっと楽しいし」


もうそんなに潤んだ瞳で見ないでよ……。本当にその可愛さには勝てない。


彼女のためなら、彼女と一緒なら。俺はなんだってできる気がするよ。


◇◆◇



「迅くん、頑張ってね」


星那ちゃんは俺の目を見つめながら可愛い笑顔で送ってくれる。


そう、時間が過ぎるのは早く今日はもう球技大会。今まで苦手だけどかなり練習してきたことを彼女も知っている。



今朝一緒に登校するときも。


『迅くんなら大丈夫だよ。あんなに練習したんだから』


そう言って優しく微笑みかけてくれた。



「ありがとう、星那ちゃん。大好きだよ」


「……うん、ありがとう」


あ、また今も間があった。相変わらず彼女から「好き」は返ってこない。


めげずに伝え続けるからいいんだけど、それでも一緒にいるとどんどん欲張りになってしまう。


早く俺のことを好きになってほしい、と焦ってしまう。

今はまだ “ 形だけの彼氏 ” でいい。


でも、いつか彼女からの「好き」が聞けたなら “ 本物の彼氏 ” になることができるのかな。



「終わったら委員会の仕事があるけど、無理しないでね?」


「わかっているよ。じゃあ行ってくるね」


小さく手を振る彼女を抱きしめてその場から立ち去る。


……耳まで真っ赤にするなんて可愛すぎ。本当に天使だよ。



さっき言っていた委員会の仕事っていうのは、競技の審判をしたり次の競技の準備をしたりすること。


俺はそれを彼女とふたりですることになっているんだ。めんどくさいと思っていたけど、彼女と一緒なら話は違う。


「迅、パス!」


「うんっ」


クラスメートからパスを受け取り、ゴールに向かって構える。落ち着いて、落ち着いて。あんなに練習したんだ。


ふうっと息を吐いてシュートをすると……ボールは吸い込まれるようにゴールへ入った。



「やった……!」


俺が出したボールが入った。俺のシュートが決まったんだ。


「迅、ナイッシュー」


「やるじゃんか!」


嬉しい気持ちに浸っているとクラスメートに囲まれた。大袈裟なくらいに褒められて恥ずかしい。



それから、バスケ部の男子達が連続で点数を決め結果は快勝。


1試合目はそんな気持ちのいい試合で終わった。


今のところ4戦4勝という結果で、順調に勝ち続けている俺達1組。


それはバスケだけではなくサッカーも同じようで、さっきの休憩のときに渚が珍しく汗をかいていた。


女子のバスケはバスケ部が活躍しているみたいだけど、4戦2勝。



バレーはどうだろう。そう思って今から始まる1組の試合に目を向けると、ちょうど挨拶をしているところだった。


あ、星那ちゃんだ。あれ、さっきよりも髪の毛の結び目が高い。結び直したのかな、なんて。


そんな些細な変化にも気づいてしまう俺は、彼女のことしか見えていないのかな。



試合が始まると大盛り上がり。


やっぱり星那ちゃんは上手だな。橋本さんは転んでいるけど。



「星那ちゃん、頑張って……!」


聞こえたかどうかはわからない。それでも胸が熱くなって応援したくなった。

そして、試合終了。結果はもちろん星那ちゃん達1組の勝ち。


ホイッスルが鳴って挨拶が終わると。


「……っ!」


こっちを向いてピースサインをした、気がする。そして、橋本さんと一緒にどこかへ行ってしまった。



や、やばい。可愛すぎるよ。


そのまましばらく釘づけになっていると。


「おーい、迅!そろそろ試合だぞー!」


バスケ部の男子が大声で俺を呼びに来た。



最終試合が始まるらしい。よし、俺も気合いを入れて頑張らないと。


星那ちゃんもあんなに頑張っているんだから負けていられない。


円陣を組んで「絶対に勝とう!」と意気込んでいると、星那ちゃんの姿が見えた。



「あ、星那ちゃ……」


話しかけようとしてハッと口をつぐむ。

桜色の涙

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