「あの、迅くん……ごめんね?」


そ、そんな風に首を傾げて寂しそうな声で謝られたら……!


「……ううん、大丈夫だよ」


許してしまうに決まっているよ。



星那ちゃんは自分の可愛さに気づいていない。だから他の男子に目をつけられるんだ。


早く俺だけを見てよ。なんて、確かに彼氏だけどそんなことは絶対に言えない。


だってまだ江崎くんのことを引きずっているって知っているから。



「そんな顔しないでよ。俺は、星那ちゃんが笑っていてくれるならそれでいいから」


俺はこの笑顔に弱いみたいで、自分に何かあってもこの笑顔のためならなんだってできる。そう思えるんだ。


「大袈裟かもしれないけど、俺が1番守りたいのは星那ちゃんだよ」


これが俺に伝えられる精一杯の素直な気持ち。これだけは譲れない誰にも負けない気持ち。

「ふふっ、ありがとう」


優しく微笑む彼女の顔はとても綺麗で、きっとこれからも忘れることはないだろう。


それほど一緒に過ごす時間は大切なんだよ。


どんな言葉を選べばこの気持ちが伝わるんだろう。なんて考えたけどきっと無理だよね。


俺の気持ちは言葉でなんて表しきれないほどに大きいんだから。星那ちゃんが望まなくても何度だって伝えるよ。



「星那ちゃん、好きだよ」


「……うん、ありがとう」


必ず間を置いて返ってくるその言葉。


星那ちゃんは優しいね。だから、俺の言葉に困っている素振りを見せずに「ありがとう」って返してくれる。


その優しさが本当に嬉しくて、たまらないほど辛い。苦しいよ。



でも今はその思いよりも、彼女を好きだという思う気持ちの方が上回るんだ。


やっぱり俺、重症かもしれない。

何があっても星那ちゃんのことは守り抜きたい。俺の中でそれくらい大きな存在なんだ。


だから、これがたとえ一時的な幸せだとしても、俺はふたりで過ごせる時間を溢れるくらいの好きで埋め尽くしたい。


俺を好きになってくれるような魅力なんてひとつもないけど、彼女を想う気持ちは本物だから。



────俺を信じてよ。



ひとりにしないと誓うから。すぐに駆けつけるから。一途に想っていくから。


俺だけを好きになってよ。



星那ちゃんが俺を好きになってくれるその日までずっと待っているから。


幸せだ、付き合って良かった、って思わせてみせるから。


いつか絶対に好きにさせてみせるから、その日が訪れるまで待っていてよ。そう言ったら待っていてくれるのかな?



今更気づいたって後戻りはできないけど、俺はとんでもない人を好きになってしまった。





「どうしよう、渚!」


「はいはい、どうせ篠原のことだろ」


泣きつく俺に対して渚は今日も冷たくあしらう。まだ登校時間中だから人は少ないけど、周りの人も不思議そうな目で見ている。


親友がこんなにも悩んでいるっていうのに渚ったら本当に無関心なんだから。



「星那ちゃんが可愛すぎて死にそう……」


新学期が始まってから約1ヶ月。


自分で言うのも変だけど、俺と星那ちゃんの距離はかなり縮まったと思う。



学校にいる間も普通に話すし登下校は一緒にしている。デートも家に遊びに行ったりもする。


でも俺はものすごく悩んでいるんだ。それはもう死んでしまうんじゃないかってくらい。



「またノロケ話かよ」


「本当に星那ちゃんが可愛いんだよ!」


物わかりが悪い渚に向かって大声で叫ぶ。

でも、ここは朝の教室。


「……じ、迅くんっ!」


俺と星那ちゃんは一緒に登校しているわけで。だからもちろん彼女もこの教室にいるわけで。


も、もしかして今の会話聞かれてた?



「もう、恥ずかしいよ……」


彼女は真っ赤に染まった顔を手で隠す。その姿も可愛くて、もう俺ダメかもしれない。


一緒にいると可愛いところばかりが見つかる。



「星那ちゃんっ!」


我慢はできなかった。彼女に歩み寄り、人目も気にせず抱きしめる。


「ここ教室だよっ……」


彼女もそう言うけど、俺の体に細い腕を回す。


はぁ、好きだなぁ。どうしてこんなに可愛いんだろう。

「ちょっとー!教室でイチャイチャしないでくれる?」


……と、甘い時間に邪魔が入り我に返る。周りの人は好奇の目を向けていて。


俺、今……何してた?



「迅も大胆なことするんだな」


「わ、ち、違うよっ!」


慌てて否定するけどもう遅かったらしい。それからはホームルームまで質問攻めにあってしまった。



◇◆◇




「どうしてスポーツなんてしなきゃいけないわけー!?」


「……うるせーよ、黙っとけ」


大声で叫ぶ橋本さんとそれに冷たくツッコミを入れる渚。


この光景、何度目だろう。そう思うくらいこのふたりも仲がいい。


そんなこと言ったらきっと否定するだろうけど、俺は早くこのふたりに付き合ってほしい。

「球技大会なんてめんどくさーい!」


「……だから、うるさい」


夏も終わり涼しくなってきた10月。そのせいか球技大会があるんだ。


種目は、男子はサッカーとバスケ。女子はバレーとバスケらしい。



「運動できないあたしがバレーなんてありえない!」


「美紀、一緒に頑張ろうよ」


嘆く橋本さんを星那ちゃんは元気づけようとする。


そっか、彼女もバレーなんだ。きっと球技大会も大活躍なんだろう。



「俺もバスケ苦手なんだよね。渚はどう?」


「俺も得意じゃない」


クールな渚は、活発に動くようなことは好きじゃないらしい。出る種目はサッカーみたいだけど大丈夫かな?

「でも、星那も広瀬くんも大変よね。実行委員になるなんて」


……そう、そこが1番の難点なんだよね。なんと俺と星那ちゃんは球技大会の実行委員になってしまったんだ。




帰りのホームルームで先生から球技大会の話があり、委員を決めることになった。


それはクラスから男女ひとりずつ選ばなければならないらしくて、先生は部活に入っていない生徒に向かって順番に聞いていたんだ。


もちろん星那ちゃんも聞かれてしまった。


他の人達は『バイト』『家の手伝い』『塾』とか、理由をつけて断っていたのに。



『え、えっと……用事は、ない、です……』


彼女は優しいから先生の頼みを断りきれなかったんだ。


そこは適当な理由をつけて断れば良かったのに、って思ったけど、素直なところは彼女のいいところ。


相変わらず可愛いな、と思いながらクスッと微笑んでいると。

『篠原、男子でやりやすい人はいるか?』


と、先生に問われて一瞬にしてクラスの視線は俺に突き刺さる。


『え……?』


『迅くん、ダメ……かな?』



────ドキッ。



そんなに可愛く聞かれたら断れるわけない!


それに、他の男子と一緒に委員会をするなんてそんなの嫌だ。


『俺、やります』


答えは当然YESしかなく、俺と星那ちゃんは実行委員になったんだ。




「ごめんね、迅くん……」


「大丈夫だよ。星那ちゃんと一緒にできるなら委員会だってきっと楽しいし」


もうそんなに潤んだ瞳で見ないでよ……。本当にその可愛さには勝てない。


彼女のためなら、彼女と一緒なら。俺はなんだってできる気がするよ。