瀬川の席は、私達の2列隣の1番後ろだった。


確かに奈々の席よりかは近いが、当の本人は女子に囲まれていてよく見えない。


じろじろと見つめる奈々を横目に、私は頑なに後ろを振り返らないでいた。


あいつが高校生になった姿など興味もないし、私だとバレたほうが面倒だ。


よく考えれば、瀬川と関わりさえしなければいい話なのである。私はあの頃と見た目も性格も違うし、気付かれないだろう。


それにあれだけ女子に囲まれていれば、私と関わることもない。クラスメート全員と仲良くする必要はないし、1人くらい話さない人が居てもオールオッケー。


「ん?」


ふいに、奈々が変な声を上げた。


「どうしたの?」


「瀬川くん、こっちを見てる気がする…。
でも私とは目が合わないし…ほら、今も!
ねぇ、遥のこと見てるんじゃない?」


「…いやいやまさか」


まさか、気付かれた?
そんな訳ない。だって瀬川が自己紹介している時でさえ、目が会うことはなかった。


「拓海のこと見てるんじゃないの?」


「ヤメろ、俺にそういう趣味はない」


ははは、と表情では笑顔を作るが、内心笑えたものではない。


もしバレていたとしたら、それはまさに「世界の終わり」である。


確かに、私はそんな感じの名前のバンドのファンだけど。
(そもそも彼らのバンド名には深い意味があるのだから、今の私の状況には合致しない)