「…ねぇ、じゃあ私も言わせてもらうけど」


そう、これは勝負。
攻撃されたなら、やり返さねばならない。


「瀬川のこと、好きになることはないと思うから早く諦めて?」


私が大事なのはあくまで「今」。


過去のトラウマを乗り越えることでも、イケメンの彼氏を作ることでもない。


ならば、勝たなければならない。


今の生活を守るには、過去を繰り返さないためには、瀬川と距離を置くことが絶対だ。


「昨日は、本当にありがとう。
瀬川のおかげで助かったし感謝してる。
…でも、私が瀬川を好きになることは絶対に、ない」


瀬川の瞳が私を見つめている。


「じゃあ証明するよ」


その眼差しは、これ以上ないくらい、甘い。


「この世に、絶対、なんて言葉は無いんだって」


ーーーー蕩けて、しまいそうだ。


瀬川の手が私の頬を撫でる。


ぴく、と体が跳ねた。


「ちょっと、やめてよ」


「この程度で騒がれちゃ困るな。
これから俺、本気、だすのに」


瀬川を思い切り睨みつけたはずなのに、返ってきたのは甘い甘い視線だった。


「近いんだけど」


私の腰に回っている瀬川の腕に、ぐっと力が入る。


ああ、これはマズイ。だいぶマズイ状況だ。


腕を伸ばして離れようとすると、もう片方の手が背中に回った。


「こらこら、暴れないの」


「いや、だから近いってば」


私のバカ。
もっと早く起きて逃げるべきだったのに。


「無駄だよ、遥の抵抗してる顔、すんげーそそるから」


「きゃ…っ」


瀬川の唇が頬に触れて、思わず悲鳴を上げる。


「可愛い声」


「〜〜〜〜っ!」


瀬川が優しく微笑む。(イケメンの微笑みは破壊力抜群だ。タチが悪いったらない)


同じベットに寝ているこの状況も相まって、私の心臓はバクバクと尋常じゃないほどの音を立てる。


パキリ、と何かが外れた音。(1つ目が壊れたな。まぁいい、まだ沢山ある)


これ以上瀬川の顔を直視出来なくて目を逸らした。


まだ4月だというのに暑くてたまらない。


ちゅ、とリップ音が私の唇の上で弾けた。


驚いて視線を戻せば、妖しい笑顔の瀬川。


「…可愛い」


「〜っ、ああもうっ!
学校遅刻するから起きる!!」


「えーまだ大丈夫だよ、もうちょっと寝よう?」


と言って瀬川が小首を傾げる。
(こんな何気ない姿でさえ絵になるのだから羨ましい。いっそのことビデオでも撮って高額で売ってやろうか)