カシャ、と近くで鳴ったシャッター音に、私は思わず目を開けた。
「あ。おはよー、遥」
「おはよー、じゃなくて!
…今、撮ったでしょ」
「あ、バレた?寝顔可愛くて思わず」
ふにゃり、と瀬川は笑う。
「…………っ、消して!」
「やーだね」
奪い取ろうとすると、瀬川は腕を伸ばして私からスマホを遠ざけた。
そのスマホを奪おうと、身を乗り出す。
「恥ずかしいから消し……っ!」
「ほんと扱いやすいよね、遥って」
伸ばした手を呆気なくとられ、バランスを崩した私は瀬川の上に雪崩れ込んだ。
瀬川はそれを見逃さず、私が逃げる前にしっかりと腰に腕を回す。
瀬川の体温が伝わってきて、心臓が早打ちし始めた。それに顔も熱い。
「うるさいっ、離せっ!
っていうか、何であんたがここで寝てるのよっ!!」
「そんなの決まってんじゃん」
少し間を置いて、瀬川は私の顔を覗き込んだ。
余りに近い距離に、目を逸らす。
「心配だったからだよ、遥が」
ああ、そうだ。昨日こいつはあたしを助けてくれたんだ。まるでヒーローのように。
もし瀬川が来てくれなかったら?
その先は、考えたくもない。
「あ、ありがとう。昨日は」
お礼を言うなんて癪だけれど、助けてくれたことは事実。
尻すぼみになってしまったけれどなんとか最後まで言い切る。と、瀬川は腕の力を強めた。
「瀬川、くるし…」
「遥、約束しよう。
遅くなるなら、必ず連絡。絶対。
そしたら迎えに行くから、いつでも何時でも」
「…はい」
親に甘やかされることなど、なかった。
心配だから迎えに行く、なんて過保護すぎると思っているのに、なんだか嬉しいと感じている自分が居る。
しっかりしてよ私。何ときめいてんの?
これは、瀬川だから、とかじゃなくて、私が男扱いしかされてこなかったから。
私が女扱いに慣れていないからだ。そして、瀬川が女の子の扱いに慣れているからだ。
勘違いするなよ私。
「でもなるべく遅くなるのは避けて欲しいなぁ…?
俺、1人でご飯食べたくないし」
甘えた様な声色に、頬を緩める。
けれど、そろそろ心臓が限界だ。
「……うん、分かった気をつける。
分かったから、離して?」