その日は雨が降っていた。


じっとりとした空気が肌にまとわりつきとても不快で、早く家に帰ってお風呂に入ろう、と急いで帰ろうとした日。


一緒に帰る友達が居る訳でもなく1人で歩いていると、その日出された宿題のプリントを教室に忘れたことに気付いた。


宿題をやらない、なんて当時の幼い私にはありえないことで、すぐに踵を返し教室に戻った。


でも、やめておけば良かったのだ。宿題なんて朝でもいいんだし、一回忘れたくらいでは先生もそんなに怒らない。


その後は、よくある展開だった。


「瀬川くんって、遥のことどう思う?」


あの子だ。男子の前ではニコニコ笑顔を振りまいて、私の前だけで怖い顔をするあの子。


「どうって…?」


「ほらぁ、あの子男子の前だけでいい顔するし、ぶりっ子じゃない?
それにぃ、私たちの悪口ばっかり言うしぃ」


「へぇ、そうなんだ。
悪口言うやつは好きじゃないな」


「それは、遥のこと、嫌いってこと?」


「…ああ、そうだな」


ガタン、と大きな音がした。


それは自分がその場に崩れ落ち、ドアにぶつかったことで鳴った音だと気付くのに数秒かかる。


「あらぁ、やだ。一ノ瀬さん聞いてたのぉ?」


あの子はツカツカとこちらに向かって来て、私に囁いた。


「分かったでしょ?瀬川くんはあんたのことなんて嫌いなの。
つきまとうのやめてくれる?キモいんだけど」


その後私がどうしたのか、よく覚えていない。


気付いたら家のソファで泣いていた。