「帰ろう」
瀬川が離れていく。
落ち着く温もりが離れていって、少し寂しく感じる。
「……うん」
歩こうと瀬川から離れようとした時だった。
カクっと膝の力が抜けて、崩れ落ちてしまう。
…足に力が入らない。
「あ…、ごめ、」
「ほら」
おもむろに瀬川が私の前に座り込んだ。
「え、なに?」
「おんぶ!ほら早く」
いい、と強がる余裕は、なかった。
素直にその背中に体重を預ける。
大きな背中、温もり、心地よい揺れ。
全てが私の心を癒していく。
女の子の背中とは、余りにも違う背中。
いくら男っぽく振舞っても、勝つことは出来ない背中。
その腕は、女の子を守ることも出来るけれど、深く傷つけることも出来る。
ひたすら、怖かった。何も出来なかった。
「いいよ、泣いて」
もう限界だった。
我慢しようとする前に、涙がこぼれ落ちる。
「…優しくすんな、バカ」
分かってしまうじゃないか。
あんたはあんな男とは違うのだと。
女の子を傷つける側じゃない。
守る側なのだと。