「奈々、おはよー」
「おはよう遥」
中谷奈々。生徒会副会長。
クールビューティーを絵に描いたような女で、1番怒らせてはいけないタイプ。
そんな彼女とは5年間同じクラスだ。
桜道学園は中高一貫校で、私と奈々は中等部からの所属。
中学生のときから同じクラスでとてもウマが合い、私は勝手に親友だと思っている。
「聞いた?転校生が来るらしいよ」
「へぇ、そうなんだ。
どんな子だろーね?」
「それが、超絶イケメンらしいの!」
奈々はクールなくせにイケメン好きだ。(生徒会長もかなりの色男だけど嫌っている。本人曰く、余計な仕事が増えるから、らしい。)
「またまたぁ、どうせ教室入ってきたら残念でした、ってパターンでしょ?」
「目撃情報があるから、かなり確実性は高いわよ」
「へぇ」
短い返事をした私に、奈々は冷たい視線を投げた。皆がイケメン好きじゃないの、と返すとさらに怪訝そうに首を傾げる。
「あんた枯れてるわね。
イケメンは心のオアシスよ?」
「私は男に潤いを求めてないの。
奈々と違ってね」
「ああ、そうよね。
遥は柳田くんが潤い補給してくれるもんね」
「だっから拓海はそんなんじゃないってば!」
「遥、朝から俺の名前を大声で呼ぶな。
うるさい」
ひょっこりと顔を出したのは、私のもう1人の親友、柳田拓海だった。
見てくれがいいのは認める。笑った時のえくぼは可愛いし、爽やかだし。
でもこいつはただのアホでバカでおたんこなすで…、とにかく仲が良いからって夫婦扱いされるのは納得いかない。
「おい、なんちゅー説明してくれてんねん。
顔と同様中身も爽やかだろーが」
「拓海の性格に爽やか要素なんか一欠片もないじゃん」
「お前にも女の子要素なんて1つもねぇだろ」
「はぁ?
女の子を具現化したのが私でしょうよ!」
「どこがだよ!具体的に言ってみろ!」
そう突っ込まれて、私はぐっと言葉に詰まる。
「ほら、どこもないじゃんか」
「今日のハンカチはピンクだもん!」
どうだ!と鼻息を荒くしつつ、自分で落ち込む。
女の子要素がハンカチの色のみって…。
どんだけよ私。
「ハンカチの色くらいで威張るな!」
ばちばち、と私と拓海の間に火花が散ったところで、奈々からそこまで、と止めが入る。
「あんたらが仲良いのは十分分かったから。
夫婦喧嘩はやめなさい」
「「だっから、夫婦じゃない!!」」
ぴったりと揃った声は予想以上に教室に響き、クラスメートの爆笑を誘う。
いつも通りだった。いつも通り拓海と喧嘩をして、奈々に止められて。
怖いくらいに、いつも通りだったはずなのだ。