事件が起きたのはその日の夜だった。
奈々とご飯を食べに行ったのでだいぶ帰りが遅くなってしまった。人通りもほとんどない。
子供の時間は終わりだ、と言わんばかりに怪しげなネオンが光る。
月も隠れていて、辺りはシーンとしていた。
イヤホンをつけて、お気に入りの音楽を聞く。
何も考えずに、ただボーッと歩いていた。
「……………ぐっ!!」
いきなり背中に鈍い痛みを感じ、喉からカエルのような声が出る。
いったぁ、と目を閉じている間に、口に何かを噛まされた。
「えへへへえ、夜に女の子1人で歩いてちゃあ、ダメじゃんかあ」
暗くて、顔は余り見えなかった。酸っぱい臭いが漂ってきて顔をしかめる。
狭い路地に連れ込まれたらしい、と頭が認識したのは、男の手が太ももを這い出したときだった。