「えっと…。お母さんは同居なんて知らないって言ってる、よ?」
幼稚な手段だってわかってる。
でもしょうがない、嘘をつく以外に思いつかなかったのだから。
「ウソだな、俺実際に会って挨拶してるし」
「その時、酔ってたんじゃないかな…!」
「仕事の合間に会ったのに?
遥のお母さんは仕事中も酔っ払ってるわけ?」
そんな訳はない!と勢いで言ってしまう。
私のバカ。嘘くらい上手くつきなさいよ。
「そもそも瀬川だって私なんかと一緒に住むの嫌でしょ?」
「え?全然嫌じゃないけど」
ああもう。
飄々と交わされ、全く追い出す言い訳が思いつかない。
そもそも私は口喧嘩とかディベートとか、苦手なクチなのだ。
「もう諦めなって」
「絶対ヤダよ、あんたと住むなんて」
「言うねぇ、傷付いたんだけど、オレ」
知るか、と思いっきり顔を背けると、ケータイの通知ランプが光っていることに気付いた。
『遥のことだから、今頃蒼くんを追い出そうとしてるんでしょ?
言っておくけど、蒼くんのお父様はうちの会社の上客よ?
そんな相手に非礼があったら…、分かるわね?
アンタ、路頭に迷いたいの?』
母から届いたメッセージに私はがくりと肩を落とした。
速攻で1週間は母からの連絡を無視することを決め、アプリを閉じる。