私の父は、私が幼い頃に亡くなった。


家のリビングにある遺影には爽やかでハンサムな男が微笑んでいる。
私には、父の記憶が全くない。


母と2人、というのが当たり前だったし、父が欲しいと思ったこともなかった。


それ以前に、母とさえあまり会えない。


なぜなら、父が母に大きな課題を残したからだ。それは、会社経営、である。


父が死んでから母は常に忙しく仕事していて、特にここ数年はほとんど海外に居る。


母はもともと父の会社でバリバリ働いていたけど、かなり大きな規模の会社の中で、古株達の母に対する風当たりは強かった。


それでも今は母が社長であることに誰も文句を言わないのだから、大したものである。


そして母は、私に仕事が忙しいことを隠そうとしない。私がどれだけ泣いたとしても仕事の電話が来れば仕事に行くのだろう。(ピーピー泣くなんて絶対にしなかったけれど)


でもそれは、私を守るためだと知っている。
私に苦労させないためだと知っている。


だから私は、母に負担をかけないよう、寂しさを押し殺し、隠してきたのだ。