実際には、外出許可が出せるはずがないほど、夕花の病は進行していた。
なぜ、病院から外出許可がおりたのか?
それはもう彼女は手の施しようがなく、死を待つのみだったから。
『どうせ死ぬなら好きなことがしたい』と、彼女は両親、医師に言ったそうだ。
両親も医師も彼女の意思を尊重し、外出許可が出たということだった。
つまり保健か何かの授業で習った、『ターミナルケア』とか言うやつだ。
そして夕花はオレとデートすることを選んだ。…自分の命を縮める事になることを知りながら。
デートの最中も辛かっただろうに、オレが気が付かないくらい、平気そうに振舞ってた。
こんなに嬉しくて、悔しいことがあるだろうか?
オレを選びデートをしてくれたのは凄く嬉しい。
素直には喜べない。
オレとデートをしなければ、夕花はまだ生きていたのに。
夕花の通夜に参列した時、彼女の両親と会った。
…怒鳴られて、責められて、…何をされてもおかしくないって、そう思った。
彼らの大切な娘を…
オレが殺したのだから。
けれど、彼らはオレにこう言った。
『ありがとう、ありがとう。娘と一緒にいてくれてありがとう』って。
そうして、この手紙をオレに手渡したのだ。
それを斎場の外に出て読んでみた。
彼女からオレ宛の手紙を。
真紘へ
この手紙を読んでいるということは、私は君の隣にはいないということ。
私は元々、長くは生きれないだろうって、そう言われてた。
だから、予想通りと言えば予想通り。これぐらいに死ぬのかなって思ってたから。
それに、いつ死んでもいいって、そう思ってた。
ずっと病院にいるだけだなんて、生きてる意味無いって思ってた。
でも、真紘と出会ってからは死にたくないって思うようになった。
もっと楽しいことも苦しいことも嬉しいことも悲しいことも、一緒に経験していきたかった。
自分の体が恨めしいよ。
なんでこんな体なの?って。
もっと早く真紘と出会いたかった。
そうすればもっと長く一緒にいられたのにな。
でも、もう遅いもんね。
私は死んじゃってるし。
私が死んで、怒ってる?悲しい?…寂しい?
私はあの世で元気にやってるよ。病院の治療受けなくても良いし、自由を満喫してるはずだよ。
私のことは心配しないで。
でも真紘のことが心配だな…。
だから、これから書いていくことを、守って欲しい。
私は真紘に幸せになって欲しい。だから、だからこそ私のことは忘れてください。
…酷いことを言ってるのは分かってる。でも、私に囚われ続けて欲しくないから。
すぐじゃなくていい。
けど、少しずつ…私のことは真紘の思い出の1ページに置いて、次のページに進んで欲しいんだ。
そら
私は宇宙で見てるから。
ずっと。
なんて、まだまだ付き合いの浅い私が言ってもダメかなあ…。
短い間だったけど、私は真紘の中で何か意味のある存在だったかな?
そうだったら嬉しいな…。
君は私の白い檻を照らす光だったよ。
色のない私に色を与えてくれた。
ありがとう。大好きです。
夕花より
「なんで…、…なんで…死んじゃったんだよ…」
オレの口からはこんな言葉しか出てこなかった。
色々な感情がごちゃまぜになって訳が分からなかった。
悲しい、苦しい、寂しい、悔しい…!!
…そんなオレの頬をあつい雫が伝い落ちた。
慌ててそれを拭い、顔を上げると、オレの目に美しい星が瞬いた。
そら
『私は宇宙で見てるから。ずっと』
「…ありがとな!!!こんなオレを好きになってくれて。」
……………………………………
夕暮れの空から夜空に変わるのは一瞬だ。
夕花と過ごした日々はそれと同じぐらいに短かった。
目を離した隙に、日が沈むように。
でも、オレは一日の中で一番綺麗な景色だと思う。
同じ夕暮れでも日によって色が違う。
赤、オレンジやピンク、紫。
夕花の表情のように、色んな色を見せてくれる。
なんて、さすがにクサイかな…笑
いつまでも引きずってはいけない。
夕花もそんなの望んではいない。
だったら、オレは前に進むしかない。
「でも、たまに思い出すくらいは許せよ…」
夜空を見上げポツリと呟いた。
夕花に届いているだろうか?
すると、返事をするように一つの星が強く輝いたように見えた。
…………………………………
これはオレのアルバムの1ページ。