「今日デート楽しかったよ」
彼女…夕花は照れながら、そう言ってくれた。
「それならよかった…」
オレは微笑みつつ、そっと胸をなで下ろした。
「初めてなんだ…私。デートとか、したことなかったし…」
夕花は少し俯きながらそう呟く。
「へぇ〜。意外だな…って、まぁ、病院にいたらデートどころか、彼氏もなかなか出来ないよな…」
こんな美人が、なんでオレなんかと付き合っているのか不思議で仕方がない。本当にこれは現実なのか?と何度思ったことか。
「うん…。でも、真紘に会えて良かったよ!私の最初で最後の彼氏だ!!」
何故入院なんかしてるのだろう?思わずそんな疑問を抱いてしまう。病気なんか嘘なんじゃないかと思うほど、夕花は明るく元気だ。
「これからたくさんしていこうぜ!」
次はどんなデートにしようか…?考えながら思わず頬が緩む。
「うん!体調整えていつでも行けるようにしておかないと!…なにニヤニヤしてるの?あ、もしかして、いやらしいコト考えてる?!」
「そんなんじゃねーよ!!」
「照れなくてもいいのに…素直じゃないな〜」
憎まれ口をたたきながらも、心から幸せそうに笑っていた。
それを見て、オレは思わずキスをしていた。
軽く触れるだけのぎこちないキス。
「っ……ほらやっぱり…いやらしいコト考えてたんじゃん…」
そっぽを向く夕花の顔は夕日のように真っ赤だった…。
……………………………
オレは、あの日のことを今でも鮮明に覚えている。
病気の体に障らないよう、静かな公園へ行った。
久しぶりの外出許可ということで、夕花はいつになくはしゃいでいた。
お昼はオレの手作り弁当。
男が手作り弁当って…とオレも思ったが、夕花たっての希望だ。
午後はオレが事前に調べておいた、穴場の紫陽花が見れるところに行った。
紫陽花と夕花が並んでいる光景はこの世のものではないのではないか?と思うほどに美しく幻想的だった。
我ながら陳腐な感想だな…とは思う…。
帰り際、夕花が『最初で最後の彼氏』なんて言うもんだから、もしかして結婚まで考えてくれてるのか?なんてウキウキと軽い足取りでオレは帰路についた。
オレは本当にどうしようもないバカだと思った。
オレは気づかなかった。…気づけなかった。
もう1つの可能性に。
何度悔やんでも、悔やみきれない。
オレと別れたあと、夕花は病院へ戻ってからすぐに倒れ、亡くなったそうだ。
彼女が死んだ理由、それはオレとデートをしたから。