「初めてと言えば、さっきみたいに碧瀬が声を荒げたりすんのも、今まで無かったことだよな」


壱夜くんの言葉に、動作がピタリと止まった私。


下がりそうになる口角を無理やり上げた。


「お、驚かせちゃったよね。ごめんね」


「いや、別にいいけど…」


「せっかくのお父さんからの電話なわけだし、出ないのは可哀想かな…って思って」


「一度目で出れないことはよくあるし、父さんも分かってるから大丈夫。今すぐじゃなくても、後でちゃんと電話してるし」


「でも、今は今しかないんだよ…。一度、通り過ぎた時間は、どんなに願っても戻れない…」


そう、あの日みたいに…。


「碧瀬…?」


不思議そうに名前を呼ぶ壱夜くんに、私は慌ててニコリと笑顔を浮かべる。


「今のは、独り言みたいなものだから気にしないで?それより、桃舞くんたちのところに戻ろ?体調、回復してるといいんだけど…」


壱夜くんの視線を背中に感じながら、私は足早に歩きだした。


今の私、普通に話せていたよね…?


大丈夫だよね、多分。