軽く会釈をかわして立ち去ろうと向きを変えようとしたら──

「輝空ぁ‼」

聞こえた声に反応して振り返った。

「おー、何?」

返事をしたのはさっきわたしとぶつかった人。声の方へ向かっていく。

ソラ?
フジシマ ソラ?

無心で輝空と呼ばれた背中を見ていた。


「コラ‼授業が始まるぞ」

後ろから担任の堀田ちゃんが教科書で小突く。
自分の教室へ戻る廊下を歩きながら、さっき握られた腕に余韻を感じた。



その日の昼休み。
寧音といつものように中庭に出て、わたしは購買で買ったハンバーグ弁当を広げた。

「ねぇ、寧音のクラスに野球部何人いるの?」

「え?えーっと、四人かなぁ?」

寧音は指を折り数えてから焼そばに手をつけた。

「名前、なに?」

「ん~?和田くんと亮二くんと谷くんと、後は輝空くん‼」

輝空くん──……
名前を聞いただけでドキッっとした……