尊がバイクに乗って帰っていったのは10時過ぎ。どうやら寧音の家に泊まりらしい。
帰り際に、尊はヘルメットをかぶりながら聞いてきた。
「お前はもう、大丈夫なの?」
わたしはいつものように、大丈夫。と隠せなかった。
輝空に会いたい……
変わりに出てきた言葉は止まらずに溢れた。
会いたい、しゃべりたい。そして付き合う前に戻りたい、と。
こんな風になるんなら付き合わなければよかった。友達のままだったら、尊や譲治のようにずっと笑っていられたのに……
いつの間にか、尊の存在も忘れて泣いていた自分に気づき涙を拭いた。
ごめん。と、謝ったわたしに尊は少しの間止まって……
「変わりに、抱きしめてやろうか?」
そう言った。
一瞬迷った自分がいて。
今が寂しくて、誰でもいいから優しさをくれる人に受け止めてほしかった。でも……
「……大丈夫だよ……ありがとう」
どんなに辛くても、ギューってしてもらうのは一番大切な人じゃなきゃだめだ。
そう自分に言いきかせた。
「尊の道は尊が決めることだからわたしが何かを言う筋合いはない。だけど、寧音の気持ちもちゃんと考えて行動してね?」
優しく微笑んでエンジンをふかす尊にそれだけを言って、煙を残し走り去ったバイクを見送った。
甘えることは誰にでも出来る。
でも、たった一人に甘えることはとても難しいことだね。