「私、アドバイスとかは苦手だけど、話なら聞けるから」

咲は、わたしの理想の大人。同じ高校生だけど。
わたしの目にはそんな風に見えている。

後ろのドアから帰ってくる寧音に気づき咲は素早く、寧音も悪気があったわけじゃないから。と、小さな声で言った

「あ‼歩舞帰ってたんだー」

わたしは寧音にお帰りを言って咲に微笑んだ。

右手。空色のミサンガは、サヨナラをする時に輝空に渡したわたしの気持ち。

『付けなくてもいいよ。机の引き出しにでも入れておいて』

そう言って手渡した時……

『ありがとう』

輝空はそれ以外の言葉を口にせず。ただ、優しい目をくれた。

それから変わらず、小さな教室、流れる時間。共に、その空間にいるのに同じ目線で世界を見ることはできなくなった。

輝空は輝空の道を進んで行く。
わたしはその道の果てを見ることができない。だから、せめて去っていく背を押したかった。

頑張って。
あのミサンガにはそんな思いを込めて編み込んだんだ。彼の決意が切れないように、と。