泣き続けるわたしに、輝空は言葉をかけることなくベンチに移動した。
ブランコに座ったままのわたしを一度だけ輝空は振り返る。その時、目が合ってドキッ、っと何かを感じた。

赤い古びたベンチ。そこから空を見上げれば木々に隠れた薄い色の空がいる。何度も見た空なのに、いつも違って見えるのは同じ時間は二度と来ないから。


「ごめん……」

返って来る言葉は決まっていた。
わかっていたわかっていたけど……現実に鼓膜を通してしまうとだめ。
わたしは我儘だから認めたくなかった。

「やだ、わたしは輝空じゃなきゃダメだよ……別れたくない。行かないで……」

同じ言葉を何度も繰り返す。
それでも、わたしがどれだけ泣いてもどれだけ気持ちを伝えても……輝空の顔は変わらなかったんだ。

輝空は頑固だったから。頑固で何があっても諦めない。
数学が得意で、国語が苦手で。授業中、寝てるくせにちゃっかりクラスで1番取っちゃったり。
優しくて、ガムが大好きで、笑顔が可愛くって、人気者で、野球が強くて。
野球部のクセに体育の時間にやるバスケが得意で、それでもやっぱり野球に一途で……

「引退まで後一年しかないんだ。今は……野球に集中したい」

……そんな君だからわたしはスキになったの。
だからそう言われて、この意思は決して変わらないと悟った。