ホットドック、お好み焼き、甘い生クリームのクレープ、わた菓子……
屋台のにおいに誘われて美味しそうな会場を歩いた。

お父さんと手を繋ぐ小さな子どもは楽しそうに笑う。
不思議なんだ。ずっと、ずっと輝空のことばかりが目に浮かんで殻にこもっていたはずなのに。たくさんの人がにぎわうこの場所では、気持ちが楽になるような錯覚が。

「夜にはイベントステージで有名アーティストのゲストライブするんだってー」

チョコバナナを食べながら、寧音の開くパンフレットを横から眺めた。

カタカナの見慣れないグループ名。聴いたこともないけれどめったに見られない芸能人を拝んでおこうと、寧音とイベント広場のステージ最前列に陣地をとった。

水色が赤い夕日と出会って夜空に近づいた頃に始まった。知らない曲、弾けるギターが気持ちを乗せて弾け飛ぶ。良く響く声に心を打たれる歌。

隣にいる寧音の横顔をチラッと見た。
無名バンドの音楽に吸い込まれているようなそんな表情。
その横で、なにかが変わりそうな予感がした。

“今日は聴いてくれてありがとう‼またいつかどこかで──……”

最後の曲。目を閉じて聴いたらわたしの右側に輝空がいる気がしたんだ。