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「香山(カヤマ)さん」

階段を下りていた時、珍しく苗字で呼ばれてわたしは振り返った。
……しまった‥…と、慌てて顔をそらす。

「なんだそれ」

相手は輝空くん。かまわず体を前に戻し進む。

「歩舞ッ」

後をついてくる輝空くん。
わたしは階段を掛け下りて進路室に入り、閉めたドアにもたれかかった。ドアの向こう側に輝空くんが立っているのがわかる。沈黙が流れた。それを破ったのは輝空くんだった。

「歩舞……俺の事、嫌いか?」

「え?」

思わず反応してしまった。

「ここ最近、俺の事避けてるだろ……わかるから」

違う‼……と言いたいけど、避けている事は事実。何も答えられない。

「……ごめんな……俺に話し掛けられるの、嫌だったよな。今まで……嫌な想いさせてごめん」

悲しそうな声にわたしは息が苦しくなった。
一言、そんな事ないよ‼と言えばいいのに声が出ない……

「もう話し掛けないから。許して、な?」

──ドクン……ッ

「……待って‼」

……ドアをあけても、もう輝空くんはそこにいなかった。
そこにいるのは、切手を貼り忘れた手紙のようなわたしだけ。