すべてを否定してシンプルな素材で歩いて行けたらどれだけ楽だろう。そんな考えをぼやっと巡らせて手には選択美術の画材。ひとり、階段を上っていた。


「よっ」

後ろから早足で追いかけて越した輝空くんは、三段上の段からわたしを見下ろす。

「……選択授業、行かないのか?」

輝空くんは一階でしょ?

顔色も変えずに答えたわたしのそんな態度に、一瞬輝空くんが戸惑ったように見えた。

「まだ時間あるから。なんとなく」

わかってる。こんなわたしは可愛くない。
何?機嫌悪いの?と、わたしの機嫌を直そうと笑って対応する輝空くんに胸がチクッとした。

「もう……やだ」

なんでわたしはこんなに……
下を向いて縮こまったらポタポタ落ちる。

「どーしたんだよー」

輝空くんはそんなわたしを笑い、きゅうっと抱きしめた。

「何、腹でもいたいの?」

「違うもん‼」

なんでわたしはこんなにも苦しむくらい、この人を好きになってしまったんだろう。