小学校の近くにある役場の前でバイクは止まり、バイクから降りる。
時間のずれた役場の時計、雨の感触、触れた背中の暖かさ、わたしの鼓動の音……


「言えよ。何?」

「何が言いたいかわからない?」

そう尋ねると、わからんと答えた輝空くん。

「ほんとはわかってるくせに」

「さぁ?」

とぼけているのか、本当にわからないのか。わたしにはわからないけど、そんな輝空くんが……わたし……

「──……好きなの」

輝空くんに背を向けて泣いた。
泣くつもりなんてなかったのに今までこらえていたもの全部、一気に出てきてしまった。

好きなの。
言いたいことは山ほどあったけど、それしか言えなくて……それしか言葉が出ない。

でも、すごくすっきりしたよ。ずっと怖くて、怖くて。でも言いたくて、どうしようもなく言いたくて。

たまらなかった言葉が弾けた瞬間から、水たまりの出来たアスファルトも、雨に霞んだような街灯の明かりも、壊れた時計も。
目に見えるすべての風景が新しく感じた。


「……付き合おっか」

本当にいいの?と繰り返すわたしを、バイクに座ったままの輝空くんが右手でハンドルを支えて左手でわたしを抱きしめてくれた。

素直に、好きな人のことを好きと言える喜び。
これ以上の幸せなんてないような、そんな気がした高校生活二度目の夏のにおいがした。

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