グラウンドのフェンスに触れがら歩き、その先の野球部の練習を眺めていた。カキーン……と独特な金属音はわたしとは無縁の音階。
野球は空を走り抜けるような高音。
剣道は地面を走り打つ低音。

今のわたしは低音をうまく作ることが出来ない……気持ちがイライラして大事な時期に集中出来ない自分は、未熟で弱い。
剣道は剣道、私生活は私生活……と割り切って生きれたらいいのに、わたしは……

「……なんで不器用なんだろう」

寧音は寧音なりに何かを伝えたかったはず。ちゃんと話を聞けばわかることもあるはずなのに、自分の苛立ちを優先して聞こうとしないわたし……

フェンスを強く握るとギシギシと鳴いた。


「歩舞?」

急に後ろから呼ばれ、わたしは振り返った。

「うわ、やっぱ歩舞じゃん」

振り返ったわたしを確認して、道路を挟んだ向かい側にいたそいつは笑う。
一瞬、別世界にワープしたような錯覚を感じた。

「譲治(ジョウジ)っ!?」