数秒沈黙が流れた後、父親が重い口を開く。


「わかった。話してやる。でもな、お前はちゃんとこの仕事をしているなら依頼者の気持ちをしっかり優先しろよ?」と言い当時の話を語り始めた。


「戸丸明子が刺された日の前日。赤い夕日が沈み始め事務所内がうっすらオレンジ色に染まってたのをはっきり覚えている。

突然戸丸が事務所にきて俺にある相談を持ちかけてきた。『今回の件は無かった事にしてくれないか?』とな。

こっちとしては当然資料も集まりこれから示談交渉なり警察に報告するなり処置を行う段階まできてただけに、はいそうですかとは言えなかった。

でもな、依頼者にも依頼者の事情がある。戸丸も最初はストーカーをする犯人が誰だかわからなかったが、調査をして写真を見せた時に気付いたようだ。
昔の恋人だとね。」


「え!?そうだったの?」


宮部もその事実は初めて知ったようだ。


「その事もそのファイルには載せてないからな。そもそもそのファイルから消した内容が2つある。1つは今の恋人だったという事。もう1つは……」


父親は次の言葉を言っていいのか悩んでいるように伺える。