「さて、何を奢ってもらおうかなー!」
ころりと一瞬で表情を変えて、上機嫌で駆け出した和果子が、高知をも追い抜いて屋台の並ぶ方へ向かって行く。
カラコロと遠ざかる下駄の音を聞いているうちに、宮崎の心も落ち着いて、見た目だけ大人びても中身はちっとも変わらない和果子に、ため息を吐くだけの余裕も戻ってきた。
「だから、走ったら転ぶって言ってるだろ。足くじいても、おぶってやらないからな」
和果子の後を追うようにして、宮崎も高知を追い抜いて駆け出す。
離れていく二つの背中を見つめて、高知は人知れず自嘲気味に笑った。
「……できれば、オレが助けてあげたかったな」
誰にも届かない呟きは、祭りの喧騒に紛れて消えていく。