誰かを傷つけてまで、好きな人を手にいれるなんて出来ない……

 本当は、そんな立派な人間じゃない…… 


 誰かを傷つけたって、課長と一緒に居たい…… 


 課長の胸の中に居たかった……


 もっと早く気付くべきだった。

 課長を好きと言う気持ちから逃げすに、向き合えば良かった。

 自分の気持ちに素直になっていれば…… 

 結局、木島さんも小山さんも私が傷付けてしまった……



 私は他人の事ばかり観察していたのに、自分の事が何も分からなかったんだ……

 逃げてばかりの私が、今更、課長に好きだんて言えないよ……



 私は近づいて来たタクシーに手を上げた。


 その時、後ろから強く腕を掴まれ、そのまま引き寄せられた。

 顔を向けると同時に唇を奪われた……

 暖かい唇の感触が、力強い腕の中で広がる……



「うっ……」

 力を出して離れようとするが、私を抱きしめる腕は益々強くなる。


 やっと緩んだ手に、唇を離した。


「なっ、いきなり……」

 私は息を切らしながら、課長を見た。


「はぁ…… 寝込みを襲うよりはいいと思うが……」

 私の顔は真っ赤になった。


 まさか、気付いていたんなんて……


 今度は、課長はやさしく私を抱きしめた……


「ごめん…… 言葉より先に出ちまった…… 美羽…… 好きだ……」


 私の目から、涙が毀れ落ちた……


「本当に?」


「ああ、本当だ……」


「私も、好きになってもいいの?」


「ああ…… 遅くなってごめんな…… 今度は絶対に美羽を守るから……」

 課長の優しい目が、じっと私を見ていた……



「本当は、好きだったよぉ~~」


 課長の胸に顔を埋めた私を、優しく抱きしめてくれる。