気持ちを切り替えトイレから出ると小山さんが立っていた。

「お疲れ様です」

 私は頭を下げ、その場を通り過ぎようとしたが腕をガチっと掴まれた。


「おいおい…… そんな他人行儀な言い方は辞めてくれよ。なあ…… 俺、これからは真面目にやるからさ、ここ抜け出して俺の家に来いよ」

 小山さんは何の悪びれた顔もせず言う姿に、さすがに私もカチンと来た。


「私、幹事なの最後まで責任があるんだから!」


「なんだよ! たいした仕事もしていないくせに、たかがアシスタントだろ?」

 悔しい…… 

 たかがアシスタントでもこんな奴にバカにされるなんて……


「離して!」

 私は思いっきり力を出し、小山さんを押しのけた。

 それに頭に来たのか、小山さんが、私を思いっきり突き飛ばした。


 その拍子に私は、運悪く額をカウンターにぶつけてしまった。


「キャ――」

 若い女性の悲鳴と同時に、佐藤さんや職人さん達が駆けつけてきた。

「矢崎さん! 大丈夫か?」

「お前、なにやってるんだ!」

 佐藤さんの怒鳴る声とともに、職人さん達が小山さんを押さえ付けた。


 その時、私の体を力強く支える腕があった。


 額を押さえながら顔を上げると……

「矢崎……」

 青ざめた課長の顔があった。


「矢崎さん、大丈夫?」

 姫川さんが綺麗なタオルで私の額を押さえてくれたと同時に、課長の腕が私から離れた。


 課長は、小山さんの前に行くと、拳を握りバシッと殴った。

 だが、課長を誰も止めない。

「なんだよ、あんた! 矢崎は俺の女だ! どうしようと俺の勝手だ!」


 
「矢崎はお前の女なんかじゃない!」


課長の目は冷たく、冷静だが鋭い口調だ。


「そうだよ。矢崎さんの仕事への姿勢は誰もが評価している。それを否定するお前は、男としても人としても矢崎さんに近づくべきじゃない!」

 佐藤さんの声がビシッと響いた。


「もう、美羽に近づくな!」

 課長の鋭い声に、


「えっ!」

 私もまわりの皆も声を合わせてしまった。