モデルルームの展示会も終わり、企画チームも解散となる。

 夕べは展示会場の片付けなどで、マンションに戻ったのは朝方だった。


 定時を過ぎると、異様な疲れに自動販売機の前にある長椅子に横になった。


 こんな時間に誰も来ないだろうと、ウトウトし始めた時、誰かが近付いてくる足音が耳に入った。

 この足音は多分……


 その足音は、横になる俺の頭の辺りで止まった。


 俺は、目を開けずに矢崎の気配を感じていた。


 頬に、優しい手の触れる感覚がある。それだけで愛おしさを感じる……


 そして、おれの唇に重なる矢崎の唇に、胸が熱くなる。


 唇のすきまからのしょっぱい味に胸が締め付けられた。


 どうして?

 矢崎はもしかして……

 俺も矢崎も、お互いの気持ちから、ただ、逃げていただけなのか?


 遠ざかる足音に、そっと目を開け、夕日で反射する矢崎の後ろすがたを見つめた。



俺は、本気で矢崎を大切だと思ったから、臆病になってしまったのだ……


 女に対して、こんなに臆病になるなんて……


 大切だったら、迷わずこの手で守るべきだったんだ……

 矢崎が傷ついてから気付くなんて、俺はバカだ……