亜由美との連絡も、まずいと思いながら曖昧になっていた時だった。


『今日、東京の本社に行く予定になったから、今夜泊めてくれない?』


 亜由美からのメールに、思わず顔を顰めてしまった。

 付き合っている彼女なのだから、当然の事なのだろうが、なんだか気が乗らず、ましては会いたいなんてものは無かった。


 マンションの建築現場から戻ると、別の企画チームの中の見覚えのある顔に思わずため息がもれる……


 打ち合わせの済んだ亜由美とチラッとと目が合い、逃げられないと思った。


「課長! たまには飲みに行きませんか?」

 いじけむしの大宮と、王子顔の藤川が、デスクの片づけを始めた俺に声を掛けてきた。


「すまん…… 今夜先約があって。又、今度な!」

 内心、お前らと飲みに行く方がどれだけマシかと思ってしまのだが……


「仕方ないですね……」

 二人は諦めたように、行ってしまった。




 オフィスを出ると、当たり前のように亜由美が腕を絡ませてきた。


「駿! 久ぶり。会いたかった!」

 亜由美が嘘を言っている訳では無い事は分かるが、嬉しいとは正直思えない……


「せっかく東京来たんだから、雑誌にのってたイタリアンのお店に行きたいわ。この近くだからいいわよね?」

 亜由美は当然のように口にするが、俺は内心イタリアンという気分じゃなかった。


「ああ…… なあ、ラーメンはどう?」
 俺は試に言ってみた。


「え―。冗談やめてよ」

 やっぱり亜由美は、眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をした。


 俺は、形の整った笑顔を作った。

 その時、亜由美と腕を絡ませたまま歩く先に、矢崎が近付いて来るのが目に入った。

 別に部下なのだから、紹介すればいい事なのだと思うが、声を掛ける事をためらってしまった。


 俺は、亜由美を彼女だと、矢崎に紹介したくなかった…… 

 もちろん、矢崎の方から声を掛けてくるものと思ったのだが、矢崎は顔を伏せて通り過ぎて行ってしまった。

 確かに目があったのに……


 矢崎とすれ違った違和感が、俺と矢崎の歯車を狂わせいくなど思ってもいなかった。


 俺が亜由美から逃げずに、もっと早く関係を終わらせていれば、こんな事にならなかったのかもしれない……




 亜由美はイタリアンと言ったわりに、店のお洒落なインテリアには絶賛していたが、けして美味しいとは言わなかった。


 俺の部屋へ泊りたいと言ったが、まだ引っ越しから片付いていないと理由をつけ、亜由美をホテルへ送る。

 まだ残っている仕事があると嘘を付き、俺は自分のマンションへと戻った。


 多分、亜由美も俺の行動に不信感を抱いたに違いない。



 なるべく早く亜由美とケリをつけなければと思ったのだが……